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12 初陣

「ユズルさーん。このスライム倒してみましょう!」


 ミリアが元気に言う。初めての戦闘だ。ましてやスライム。ここで怖気づけば男が廃る。

 アイテムバッグから片手剣を取り出す。


「準備出来ましたね! 一旦自分の思うようにスライムの核を狙ってください!」


 しっかりとスライムを見据える。あまり動きは激しくない。

 両者、一歩も動かぬまま数秒が過ぎる。その刹那――


「うおおおおっ!!」


 まずは俺が動き出す。スライムまでの距離が4m、3mと近づく。


「キュイィ……!」


 スライムも俺に向かって走り出す。


 片手剣を振り上げ、スライムに斬りかかる……が、スライムの圧に驚き一瞬目を閉じて剣を振る。

 ガキンッ、と鈍い音がユズルの耳に入り、力んでた手に激しい振動が伝わる。


「ユズルさん、戦闘の基本は『相手をよく見る事』です! もう一度やりましょう!」


 ミリアに鼓舞を入れられる。

(相手をよく見る、スライムと核の位置をしっかりと……)


 「ここだ!!!」


 片手剣が綺麗にスライムの核を通って振り下ろされる。魔石がドロップし、魔石を手に入れる。

 倒した感触が手に残る。スライムを倒したはずなのにまだ体が若干震える。

 初めて敵を倒したという事実が遅れて胸に落ちてきた。


「やりましたねユズルさん! 初討伐おめでとうございます!」

「ありがとうミリア。スライムとはいえとても緊張したよ」


「良い太刀筋でした。ですが、最初なので戦闘の基本をお伝えしますね。とにかく相手をよく見てください。相手が魔物であれ、動物であれ、人間であれ。戦闘において予測と現実が必ずしも一致するとは限りません。正しいのはいつも現実です」


「相手が攻撃してきても、軌道を”予測する”のではなく、まずはしっかりと”見る”ことです。時には予測することも大切ですが、見なければ攻撃は避けられませんし、こちらの攻撃は相手に当たりません。相手の動き、呼吸、体の位置。相手が人間なら相手が武器を持ってる手の指先から足元まで。予測というのは相手の攻撃が見きれない時にするものです。もちろん相手の攻撃でダメージを負うのが怖い事はわかります。しかしその攻撃が原因でユズルさんが死ぬ事だって有りえます」


 ミリアが力説してくれる。

 相手が魔物であろうが動物であろうが――あるいは、人間であろうが。

 よく見ることが大切らしい。さすが現役の冒険者だと感心した。

 すこし冒険者というものを楽観視していたから考えを改める必要があるな。

 俺はその事実を胃の底に重く沈めた。


「今はスライム相手なのでユズルさんが死ぬこともなければ、傷を負えば私がポーション持っているのでユズルさんを治療することも出来ます。ですが、もしグレイスを離れて1人で活動する時期があった場合誰も守ってくれません。これが初戦闘ということは分かっています。お説教のようになって申し訳ないのですが、悲しい思いをする人を増やしたくはないのです……」


 ミリアが少し悲しそうな表情をし、少し遠くの方を見つめる。ミリアの過去に何かがあったのだろうか。

 しかしそうだな。俺が守る側になると決意して依頼を受けているんだ。俺も強くならなきゃいけない。


「ありがとう。よく見ることが大事なんだな。次のスライムから少しよく見て、目を逸らさないようにしてみるよ」


 ミリアにそうお礼を告げ、ミリアは俺にサムズアップを送った。



 ◇ ◇ ◇


 スライムを20匹ほど討伐した頃、ミリアが「そろそろグレイスに戻ろうか」と言い、2人は街へ引き返すことにした。

 ギルドで討伐報告を始めた瞬間、受付嬢の動きが止まった。


 書類に走っていたペン先が宙で固まり、次いで、周囲を一度だけ見回す。まるで、この場で口にしていい内容かを確かめるような仕草だった。


「……ユズルさん、ミリアさんですね」


 名前を確認する声は、必要以上に丁寧だった。

 本来なら続くはずの討伐数や報酬の確認は行われない。


「申し訳ありません。数刻前に、リース・アルベルト様より言伝をお預かりしております」


 受付嬢は声を落とし、言葉を選ぶように続けた。


「『お二人が来たら、必ず2人揃った状態ですぐに屋敷へ向かうよう伝えてほしい』とのことです」


 二人に、言葉にならない緊張が走る。

 ギルドを通しての呼び出し。理由の不在。妙に強調された「必ず2人揃って」という条件。

 ユズルは直感的に理解していた。これは「相談」でも「報告」でもない。何らかの状況が、すでに動いている。


「……わかった。ミリア、戻ろう」

「はい」


 ミリアは即座に頷いた。その表情から、普段の軽さは消えている。

 二人は周囲の視線を背中に感じながら、足早にギルドを後にした。


 ◇ ◇ ◇


 急いで館へ戻るとリースが迎えてくれた。


「ユズルさん、ミリア! 忙しい所すみません。先程一通の知らせが入って、ユズルさんに協力してほしいことがあるのです」

「なんでも協力するからまずは落ち着いて。何があったのか、どうすれば良いのか冷静に教えてくれ」

「はい。先程カルディアという村の村長から『ミリアの母親が急に倒れた。医者に診てもらってるが容態は変わらない』という一報が届いたのです。ですので、このエリクサーをカルディアのミリアのお母様へと届けてほしいのです。馬車でいくと2日はかかりますが、ユズルさんの能力ならもっと早く着くはずです!」


 ミリアは顔を青ざめていた。

 リースも不安そうな顔でこちらを見つめてくる。


「し、しかしリース様、エリクサーなんてあまりにも高級なもの頂いてもよろしいのでしょうか……?」

「ミリアは私の大切な家族の一員だと思っています。その家族のお母様も当然私の家族です。何も気にすることは有りません。もし気にするというのであればいつものように専属護衛続けてくれるだけで十分嬉しいです」


 あっさりと言ってのける。こんな時に思うのも何だが、リース、お前本当に子供か?

 彼女の凛とした瞳には――覚悟と希望の光が宿っていた。


「俺はカルディアという場所を知らないから道案内さえしてくれるなら全然送るよ。馬車よりもトラックのほうが早いからな」

「ありがとうございます。ではエリクサーはミリアが大切に持っておいてください。カルディアはここから馬車で2日かかる距離ですが、ユズルさんのトラックなら夕刻までには届く距離だと思います」


 ミリアはリースからエリクサーを受け取り、『大丈夫です。絶対にお母様は完治します』とミリアの手を握りながら慰める。


「リース様……ありがとうございます。ユズルさん。道案内するので私をカルディアまでお願いしてもいいですか?」

「おう、任せろ。安全運転でカルディアへ連れて行ってやる」

「あ、そうです。ミリア、よければこちらをお持ちください」


 リースはミリアに何やらカバンのようなものを持たせた。


「依頼を終えてからまだ食事も取っていないでしょう。移動の休憩の際にユズルさんと一緒に食べてください」

「リース様……ありがとうございます」

「お二人とも気をつけてくださいね。必ずお母様が良くなると信じていますから!」




 リースの熱い声を聞き、2人は館の門を出た。


読了いただきありがとうございます。

次回投稿日は2月18日18時半になります。

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