1 転生させる人本当に合ってる?
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夢?そんなものは母親のお腹に置いてきたよ。夢持ってたところで仕事の役にたたないしね。
特に何か目立った特徴があるわけでもなく、お金を持ってるわけでもなく、かといって学力があるわけでもない。そんな俺はただの夜間配送ドライバー。安い給料でこき使われ、家帰ったら風呂入って飯食って寝るだけの生活。お世辞にも楽しいと言えるような人生を送ってるわけでもない。
「早く帰りたいなぁ……」
俺は遠くを眺める。夜中ということもあり、車の台数が非常に少なく暇だ。かといって車が多すぎても時間に間に合わなくなるので困るのだが。
『続きまして、ラジオネーム「ユズル」さんからのふつおたです!パーソナリティーの皆様こんばんは。俺は普段夜間配送ドライバーをやっていて……』
お、俺のお便り読まれた。初めて読まれたからすごく嬉しいな。少しラジオの音量を上げよう。
『うぁああああ!!!!』
急にデカい謎の声が聞こえた。嫌な予感がして正面を向くとそこには赤信号と横を渡る歩行者。ラジオに気を取られて前方をよく見られていなかったのだ。
このままではこの人の人生を終わらせてしまう。考えれば考えるほど心臓の音が耳元で鳴る。真っ白になりそうな頭を振りほどいて現実を見る。反省や後悔なんていつでもできる。今はこの事態をなんとかしないといけない。
「やっまずっ……間に合わ……」
ブレーキを思いっきり踏んでハンドルを大きく回す。しかしトラックだ。これが軽自動車とかなら間に合ってたかもしれないがさすがにトラックが重すぎる。
急に光が眩しくなったと思ったらトラックが建物の方を向いているようだ。こんなにハンドル切っていたんだな。
もうダメだ、何もかも間に合わない。
そのままトラックのライトでいっぱいになり何も見えなくなってしまった。
いや、でもおかしいぞ、なぜ何の衝撃もない?建物にぶつからない?明らかにブレーキが間に合う速度ではなかったはずなのに。奇跡がおきて間に合ったのか?
「……須藤弓弦さんですよね。はじめまして」
急に知らない人が声をかけてきた。なぜこの人は俺の名前を知っている?そもそも今の状況はどうなっているんだ?俺はゆっくり目を開ける。
見たことのない人が座っている。なぜ助手席に乗ってるんだ?鍵掛けてるはずだぞ。
「弓弦さん。先程まで何が起きていたか覚えていますか?」
「えっと、荷物運んでるときにラジオへ気を取られた結果一人の命を――そうだ、あの時横断歩道渡ってた人はどうなった!?もしかして……いや、それよりも早く救助しなければ」
全身を嫌な汗がだらだらと這う。急いで車を降りようとすると諭すように彼女は語る。
「大丈夫ですよ。あの子は怪我ひとつしてないですし、建物に傷も全く付いていません。砂煙が目に入ったという程度の事はあるかもしれませんが、弓弦さんの心配するような状態には陥っていません」
その言葉を聞いて心の底から安心感を得た。どこの誰かもわからない人からの言葉なので安心するには早いかもしれないが、何故か本当に大丈夫だという強い安心感を感じる。
「ところで貴方は一体?なぜ助手席に座っているのですか?」
「私は一言でいうと『女神』です。貴方達を異世界へと転生させるために来ました」
異世界作品はよく読んでるのでわかるが、転生のテンプレみたいな展開だな。
いや、しかしこの場合あの子がチート能力を持って転生するのがお決まりの流れではないのか?そして助手席に座っている理由は教えてくれないようだ。
「弓弦さんとあの子が衝突する寸前に時を止めさせていただきました。その後、あの子の魂に直接語りかけ、異世界に行く権利とチート能力の説明をしたところ『は?お前だれ?うるさいから帰って。』というお返事をいただいたので勝手に貴方達を異世界に転生させることと決めました。どっちみちこのまま現世に残ったらあの子は事故に遭い、トラックはビルに突っ込むこととなるので戻るメリットはないですよね?」
「なんとなくわかったが、さっきから言ってる貴方“達”って誰のこと?俺はわかるがこのトラックに生物は載せていないはずだ」
「貴方とトラックです。貴方だけ転生させても意味ないでしょう。貴方だけ転生してしまったら無人トラックが事故を起こしたことになります。そうなると異世界絡みの事故扱いとなり、天界規定に則り事故処理は私がすることになってめんど…ではなくやることが多くなるのでトラックとセットで異世界へと転生していただきます」
なるほど、トラックか……しかしガソリン無ければ数週間走るのが精一杯だがどうなんだろう。異世界にガソリンスタンド……は流石に無いよな。
「とりあえず、異世界に着いたら『ステータス』と念じてみてください。そしたら大体の必要な情報出てくるので理解できると思います。では転生させますね。スゥー……ハんぎゃっ!」
女神様が勢いよく立ち上がろうとして、低い天井に思い切り頭をぶつけた。
「あ、痛⋯⋯うぅ、この車狭い」
「大丈夫?」
助手席で涙目になっている女神様を見て俺は無意識に指を伸ばした。ドアパネルにあるボタンを押し、助手席のロックを解除する。「ガチャン」と小気味よい音が響いた。凄く厳格な方だと思ったら意外と抜けてるところがあるのかもしれない。
「え? なに、鍵開けてくれたの?」
「いや、外で呪文唱えないとまた頭打つぞ。あと頭冷やしとけよ」
女神様は少し驚いた顔をしたあと、小さく笑った。口調がやけに柔らかくなっているのを感じた。
「そうだ。トラックの燃料、あっちでも困らないようにしてあげる。それじゃ、いってらっしゃい」
彼女が呪文らしきものを唱える。
「あの子を助けてくれてありがとう」
俺がそう言葉にした途端、視界がふっと滲んだ。気づけば、温かい光が俺の全身を包みこんでいた。
読了いただきありがとうございます。
次回投稿は18日の18時半予定です!
追記:三点リーダー「⋯」の使い方について改めて知ったため、1個のみの三点リーダーと中黒「・」を2個の三点リーダーへと変更しました




