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『伝統』という名の集団暴行。テニサーに洗脳され「団結こそ愛」と俺を捨てた彼女が、全国報道で破滅し泣きついてくるまで  作者: ledled


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第三話 聖域の崩壊

軽井沢の深い森の中に、その別荘はあった。高い塀に囲まれ、外部からの視線を完全に遮断した広大な敷地。『キングス』のOBであり、現在は大手不動産会社の役員を務める男の持ち物だという。

六月の湿り気を帯びた夜気の中、高級車が次々と門をくぐっていく。中から降りてくるのは、ブランドスーツに身を包んだOBたちや、露出の激しいドレスを纏った女子大生たちだ。


「……気持ち悪い光景だな」


森の中、別荘を見下ろす高台の茂みに潜みながら、俺は双眼鏡越しにその様子を監視していた。隣には、業務用の高性能カメラを構えた真壁さんがいる。


「金と権力を持った男たちが、若い女を食い物にするための要塞ってわけね。吐き気がするわ」


真壁さんは冷静な口調だが、その瞳には冷たい怒りの炎が宿っていた。

俺たちは数日前から現地のロケハンを行い、警備員の配置や監視カメラの死角を徹底的に調べ上げていた。そして今夜、真壁さんのツテで手に入れた最新鋭のドローンと、超高感度マイク、そして別荘内部に事前に仕掛けた隠しカメラを使って、奴らの悪事を白日の下に晒す準備を整えていた。


「内部カメラ、接続良好です」


手元のタブレット端末に、別荘内の映像が映し出される。広々としたメインホールには、既に五十人ほどの男女が集まり、立食パーティーが始まっていた。シャンデリアの下、高価なワインが開けられ、嬌声が響く。


その中心に、須藤と優奈の姿があった。

優奈は、白い薄布を何重にも巻いただけのような、ギリシャ神話の巫女を模した衣装を着ていた。肌の露出は極めて多く、体のラインが露わになっている。彼女は須藤の腕に絡みつき、OBたちに媚びるように酒を注いで回っていた。


「あれが……優奈……」


画面越しに見る彼女は、俺が知っている優奈とは別人だった。瞳はどこか虚ろで、それでいて異様な高揚感に満ちている。薬物の影響か、あるいは極度の洗脳状態か。彼女はOBの初老の男に腰を撫でられても嫌がる素振りも見せず、むしろ嬉しそうに微笑んでいる。


『須藤くん、いい子を見つけたねぇ。素朴そうに見えて、なかなか』

『ええ、先輩のために教育しておきましたよ。今日は特別に、彼女が儀式のメインを務めますから』

『ほう、それは楽しみだ』


マイクが拾う会話の内容に、俺は奥歯が砕けそうなほど強く噛み締めた。

教育? 儀式のメイン?

あいつらは優奈を、人間として見ていない。ただの肉人形、貢ぎ物として扱っている。そして優奈自身も、それを「名誉」だと信じ込まされている。


「落ち着いて、相沢くん。今はまだ動く時じゃない」


真壁さんが俺の肩に手を置いた。


「感情的になったら負けよ。奴らが決定的な一線を超える瞬間、その『証拠』こそが、奴らを殺す武器になるんだから」


そうだ。ここで飛び込んでも、俺はただの不法侵入者として捕まり、奴らは権力を使って揉み消すだろう。優奈を救うためにも、そして全ての被害者の無念を晴らすためにも、俺は悪魔になりきらなければならない。この地獄の宴を、最後まで記録する観客にならなければならないのだ。


時間は刻一刻と過ぎていく。

日付が変わる頃、会場の照明が落とされ、妖しげな赤いライトが灯された。大音量の音楽が鳴り響き、パーティーは狂乱の様相を呈し始める。

数名の新入生らしき女子が、泥酔してソファに倒れ込んでいるのが見えた。その周りを、ニヤニヤと笑う男たちが囲み始める。


『さあ、これより伝統の儀式を執り行う!』


マイクを持って叫んだのは須藤だった。会場から歓声と口笛が上がる。


『新入生諸君! 今日こそ君たちが真のキングスの一員となる日だ! 我々の結束は血と精によって結ばれる! この秘密を共有し、運命共同体となる覚悟はあるか!』

『おおーっ!!』


狂信的な叫び声。須藤は満足げに頷くと、優奈の手を引いてホールの中央へ進み出た。


『今日の巫女は、一年の川口優奈! 彼女は自ら志願し、我々の愛を受け入れる覚悟を決めた! 彼女の献身に、我々も全力で応えようではないか!』


優奈はふらつく足取りで中央のテーブルの上に立たされた。スポットライトを浴びて、彼女は恍惚とした表情で両手を広げる。


『私……幸せです。選ばれて、みんなと一つになれるなんて……』


その言葉が、スピーカーを通して俺の耳に突き刺さる。

もう、見ていられない。直視したくない。

だが、俺はタブレットの画面から目を逸らさなかった。この光景を目に焼き付け、一生の憎悪として刻み込むために。


「……録画、開始」


真壁さんの指が、エンターキーを叩いた。

そこから先に行われたのは、言葉にするのもおぞましい行為だった。

「通過儀礼」という名の集団レイプ。抵抗できない泥酔した新入生たちへの暴行。そして、自ら進んでそれを受け入れる優奈の姿。

OBたちも加わり、会場は欲望と狂気が渦巻く地獄絵図と化した。

須藤はそれを高みの見物とばかりに眺めながら、スマホで動画を撮影している。それが「証拠」として被害者を縛り付ける鎖になるのだ。


「……十分だわ。これ以上は、見ているこっちがおかしくなる」


三十分ほど経過したところで、真壁さんが静かに言った。

俺たちの手元には、顔も、声も、行為の内容も、すべてが鮮明に記録されたデータが残った。OBの中には有名な企業の幹部や、テレビで見たことのある顔も混じっている。これは、単なる大学の不祥事では済まない。社会全体を揺るがす大スキャンダルになる。


「撤収しましょう。警察への通報は、私たちがここを離れて、データを安全な場所に送ってからよ」


真壁さんの指示に従い、俺たちは機材を片付け始めた。

その時だった。


「おい、誰かいるぞ!」


懐中電灯の光が、俺たちの潜む茂みを照らした。見回りの警備員か、あるいはサークルの下っ端か。

俺たちの動きに気づいた男が二人、こちらに向かって走ってくる。


「しまった、見つかった!」

「相沢くん、先に行って! 私は車を回す!」

「でも!」

「データが最優先よ! これさえあれば勝てるの! 早く!」


真壁さんは俺にSDカードの入ったケースを押し付けると、囮になるように反対方向へ駆け出した。

俺は一瞬迷ったが、彼女の覚悟を無駄にするわけにはいかない。SDカードを握りしめ、闇の中を無我夢中で走った。


「待てコラぁ!」


後ろから男たちの怒声が聞こえる。心臓が破裂しそうなほど脈打っている。枝が顔に当たり、足元の悪い山道を転げるように下る。

ここで捕まれば全て終わりだ。データは奪われ、俺は闇に葬られるかもしれない。

優奈のあの虚ろな笑顔が脳裏に浮かぶ。被害者たちの泣き顔が浮かぶ。

絶対に、絶対に逃げ切るんだ。


道路に出たところで、ヘッドライトの光が俺を捉えた。

終わったか、と思った瞬間、クラクションが鳴り響いた。

真壁さんの運転するワゴン車だった。


「乗って!」


スライドドアが開き、俺は飛び込むように乗り込んだ。

直後、男たちがガードレールを乗り越えて現れたが、車は急発進して彼らを置き去りにした。

バックミラーの中で、男たちが悔しそうに地団駄を踏んでいるのが見えた。


「……はぁ、はぁ……助かりました……」

「危なかったわね。でも、これで『爆弾』は確保したわ」


ハンドルを握る真壁さんは、額に汗を浮かべながらも、口元には勝利の笑みを浮かべていた。

俺は震える手で、ポケットの中のSDカードを確認した。

この小さなチップの中に、あの『キングス』という巨大な虚像を粉々に破壊するだけの威力が詰まっている。


車は深夜の高速道路を東京へ向かってひた走る。

俺たちは車内で、今後の段取りを最終確認した。


「明日の朝一番で、私が契約している週刊誌の編集部にこれを持ち込むわ。同時に、顔にモザイクをかけたダイジェスト版を、海外のサーバーを経由して動画サイトとSNSに拡散する」

「警察は?」

「記事が出るのと同時に動くように手配済みよ。マスコミが騒ぎ出せば、警察もメンツにかけて動かざるを得ない。特に今回は大物のOBも関わってるから、忖度されないように世論を味方につけるのが先決ね」


真壁さんの計画は完璧だった。

ただの告発ではない。逃げ道を完全に塞ぎ、社会的制裁と法的制裁の両面から追い詰める包囲網だ。


「優奈は……どうなるんでしょうか」


ふと、俺は口にした。

あの動画が公開されれば、優奈の顔も(多少の加工はされるだろうが)世間に出る。被害者として同情される部分もあるだろうが、積極的に加担していた事実は消えない。ネット社会は残酷だ。彼女は「ヤリサーの姫」「あばずれ」として、一生消えないデジタルタトゥーを背負うことになるだろう。


「……彼女を救いたい?」


真壁さんが静かに尋ねた。

俺は窓の外を流れる街灯を見つめながら、首を横に振った。


「救いたい、とは思いません。彼女は自分で選んだんです。あの場所にいることを、あいつらと笑い合うことを。洗脳されていたとしても、俺の言葉よりあいつらの言葉を信じたのは彼女自身です」


冷たい言葉かもしれない。でも、それが俺の偽らざる本音だった。

あの夜、俺を見下して吐き捨てた言葉。『あなたとの行為より、サークルの団結の方が重い』。

あの一言で、俺の中の優奈への愛は死んだのだ。

今あるのは、かつて愛した人が怪物に成り果ててしまったことへの哀れみと、その怪物を生み出した元凶への激しい憎悪だけだ。


「そう。それがいいわ。復讐に情けは不要よ。彼女もまた、その『伝統』の代償を払うべきなの」


真壁さんの言葉に、俺は深く頷いた。


翌日の正午。

俺は大学近くのネットカフェの個室にいた。

震える指で更新ボタンを押す。


『【独占スクープ】名門大学テニスサークル『キングス』の闇! 新入生への集団性的暴行、戦慄の実態を捉えた内部映像入手!』


大手週刊誌のウェブサイトのトップに、あの別荘の画像と共に、扇情的な見出しが躍った。

記事には、俺たちが提供した情報に基づき、サークルの常態化した犯罪行為、OBの関与、大学の隠蔽体質までもが詳細に記されていた。

そして何より衝撃的だったのは、記事の中に埋め込まれた動画リンクだ。


俺はSNSを開いた。

トレンドには既に『キングス』『名門大サークル』『集団暴行』といったワードが並び、爆発的な勢いで拡散されている。

『これマジ? 吐き気するんだけど』

『OBに有名企業の役員もいるってマジかよ』

『動画見たけど、女の方もノリノリじゃん。どっちもクズだな』

『特定班動け! 全員晒し上げろ!』


世間の怒りは燎原の火のごとく広がり、もう誰にも止められない状態になっていた。

動画に映っていた須藤の顔は既に特定され、実名と顔写真が拡散されている。優奈についても、『この巫女役の女、文学部の一年らしいぞ』『インスタ特定した』といった書き込みが見られ始めた。


俺のスマホが鳴った。真壁さんからだ。


「見たわね? 大成功よ。今、警察が大学と別荘、そして須藤の自宅にガサ入れに入ったって情報が入ったわ。OBたちも事情聴取に呼ばれてる」

「……はい、見てます。凄いことになってますね」

「ここからはショータイムよ。彼らが築き上げてきた『栄光』が音を立てて崩れ落ちる様を、特等席で見物しましょう」


電話を切った後、俺はモニターを見つめ続けた。

画面の中で、楽しそうに笑っていた優奈。須藤。OBたち。

彼らは今頃、どんな顔をしているだろうか。

まだ自分たちが「特別」だと思っているだろうか。

それとも、ようやく自分たちが犯した罪の重さに気づき、震えているだろうか。


俺の胸の中にあった黒い塊が、少しずつ溶けていくのを感じた。

だが、まだ終わりではない。

あいつらが完全に裁かれ、社会的に抹殺されるのを見届けるまでは。


その日の夕方、テレビのニュース速報が流れた。

『名門私立大学のテニスサークル幹部ら、準強制性交等の疑いで逮捕。警察はサークルぐるみの犯行と見て、OBを含め捜査を進める方針です――』


画面には、ブルーシートに囲まれて警察車両に乗せられる須藤の姿が映っていた。いつもの自信に満ちた表情は消え失せ、顔を伏せて逃げるように車に乗り込む姿は、あまりにも惨めで滑稽だった。


俺は静かにテレビを消し、深く息を吐いた。

第一段階、完了。

次は、優奈だ。

彼女は逮捕こそ免れるかもしれないが、待っているのは逮捕よりも過酷な「社会的制裁」という名の現実だ。

彼女が愛した「サークルの団結」が、彼女自身をどう守るのか(あるいはどう切り捨てるのか)、見せてもらおうじゃないか。


俺は冷めたコーヒーを飲み干し、立ち上がった。

外は雨が降り出していた。

この雨が、キャンパスにこびりついた汚泥をすべて洗い流してくれることを願いながら、俺は店を出た。

しかし、優奈についた汚れは、もう二度と落ちることはないだろう。

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