よく職質にあう
夕方。
通りの向こうで、鎧の擦れる音がした。
騎士団の巡回だ。
クリムは棚の上で一瞬だけ耳を立て、
ルゥは入口の影に伏せて、様子を見る。
そこへ――
カラン。
「……騎士団を見ると、
悪いことしてないのに、ビクッとしてしまって……
そのせいか、よく職質にあうんです」
椅子に座った客は、怒っていない。
ただ、肩が常に少し上がっている。
俺はすぐに否定もしないし、
「気にしすぎだ」とも言わない。
「確認する」
一拍置いてから言う。
「騎士団が嫌いか?」
客は首を振る。
「嫌いじゃないです。
怖いってほどでもない。
ただ……視界に入った瞬間、
体が先に固まる感じで……」
クリムが「きゅ……(体が先)」と小さく鳴き、
ルゥは「わふ(理屈より反射)」と鼻を鳴らす。
俺は頷いた。
「それはな、
“罪悪感”じゃない。
“警戒反応”だ」
客が目を上げる。
「……警戒、ですか?」
「そう。
人はな、
過去に強い緊張を経験すると、
“似た状況”に体が先回りする」
俺は棚から小瓶を三つ並べた。
「これは“騎士団が見えなくなる”薬じゃない。
“体の反応を先に落ち着かせる”ためのやつだ」
⸻
◆一本目
【瞬間的な身体反応を鎮めるポーション】
「まずこれ。
見た瞬間に肩が上がる、
呼吸が浅くなる、
視線が落ちる――
その“最初の反射”を一段下げる」
客は小さく息を吐く。
「……毎回、
自分でも分かるくらい、
体が固まってました」
「分かってるなら、調整できる」
⸻
◆二本目
【視線と姿勢を整えるポーション】
「次。
緊張すると、
人は無意識に“怪しく見える姿勢”になる」
客が苦笑する。
「……それ、言われたことあります……」
「目を逸らす、歩幅が乱れる、
急に挙動が変わる。
それが“声をかけやすい人”に見える」
クリムが「きゅ(呼ばれる)」
ルゥが「わふ(目立つ)」と頷く。
「これは、
“普通に歩いてる自分”を保つためのやつだ」
⸻
◆三本目
【“何もしていない”という事実を体に通すポーション】
「最後。
頭では分かってる“問題ない”を、
体にも伝える」
客は瓶を見つめ、少し黙ってから言った。
「……俺、
職質されるたびに、
“やっぱり怪しいのかも”って
思ってしまって……」
「そこが一番しんどい」
俺ははっきり言う。
「職質は“怪しい証明”じゃない。
“声をかけやすかった”だけだ」
クリムが「きゅ(重要)」
ルゥが「わふ(誤解多い)」と鳴く。
俺は続ける。
「いいか。
ビクつく=悪い人、じゃない。
緊張しやすい人ほど、
“目につきやすい動き”になるだけだ」
客の肩が、少し下がる。
「……じゃあ、
俺が悪いわけじゃ……」
「悪くない」
即答だ。
「ただ、
体が“先に守ろうとしてる”だけだ」
瓶を差し出す。
「今日はな、
“騎士団を見ても普通でいられる自分”を
体に思い出させろ」
客は深く息を吸い、
ゆっくり吐いた。
「……これなら、
次に会っても……
少し、落ち着けそうです」
「それでいい」
扉が閉まる。
俺はカウンターに肘をついて、ぼそり。
「……次はどうせ
“落ち着いたら逆に声かけられませんでした”
とか来るな」
クリム「きゅ(結果良好)」
ルゥ「わふ……(平和)」
やれやれ。




