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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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96/112

初めては、やり直すものじゃない

店の外は静かで、

年の変わり目特有の、少し湿った空気が漂っている。


クリムは棚の上で丸くなり、

ルゥは入口で伏せたまま、時々こちらを見る。


そこへ――


カラン。


「……童貞に戻れるポーション、ありますか?」


俺は一瞬だけ瞬きをしてから、静かに返した。


「それまた、どうして?」


客は椅子に腰を下ろし、視線を落とす。


「……初めては、

本当は彼女に捧げたかったんです……」


声は小さい。

冗談でも、軽口でもない。


クリムが「きゅ……」と息を潜め、

ルゥは“これは茶化すと壊れるやつだ”という顔で伏せ直した。


俺は、すぐには否定しない。

でも、線は引く。


「確認する」


客を見る。


「戻りたいのは、“体”か?

それとも、“後悔してる気持ち”か?」


客は少し考えてから、首を振った。


「……気持ち、です……

思い出すたびに、

“ちゃんと選べなかった自分”が嫌で……」


ああ。

これは“童貞”の話じゃない。


俺は腕を組む。


「残念だが、

“なかったことにする”ポーションは作らない」


客の肩が、少し落ちる。


「……ですよね……」


「だがな」


俺は棚から小瓶を三つ並べた。


「“意味を書き換える”補助なら、できる」


客が顔を上げる。



◆一本目

【後悔で固まった記憶をほどくポーション】


「まずこれ。

思い出すたびに自分を殴るのを止める。

“あの時の自分”を、

今の価値観で裁き続けるのは、

フェアじゃない」


客は小さく息を吐く。


「……ずっと、

今の俺で、

過去の俺を責めてました……」


「よくある。

一番きついやつだ」



◆二本目

【“初めて”への幻想を現実に戻すポーション】


「次。

“初めては特別であるべき”って思い込みを、

一段だけ下げる」


客が眉をひそめる。


「でも……特別じゃないですか……?」


「“大事”なのと、

“完璧じゃなきゃいけない”は違う」


クリムが「きゅ(違う)」

ルゥが「わふ(混ぜるな)」と鳴く。


俺は続ける。


「初めてはな、

上手くいかないことの方が多い。

それを“失敗”にするか

“経験”にするかは、

後から決められる」



◆三本目

【“捧げたい気持ち”を今に繋げるポーション】


「最後。

これが一番大事だ」


俺は瓶を指で軽く叩く。


「“彼女に大事にしたい気持ち”は、

もう失われてない。

“最初”じゃなく、

“これから”に向け直すためのやつだ」


客は三本を見つめ、しばらく黙ったあと、ぽつり。


「……俺、

“童貞に戻りたい”んじゃなくて……

“ちゃんと大事にする男でいたい”

だけだったのかもしれません」


「正解だ」


俺は即答する。


「童貞かどうかは、

お前の誠実さを保証しない。

だが――

“大事にしたい”って思い続けてるなら、

それは今も有効だ」


クリムが「きゅ(有効期限なし)」

ルゥが「わふ(永久)」と尻尾を振る。


俺は続けた。


「いいか。

過去は“捧げ損ねたもの”じゃない。

“どう扱うか”を今、選び直せる材料だ」


客の肩が、ゆっくり下がった。


「……彼女に、

ちゃんと向き合ってみます」


「それでいい」


瓶を差し出す。


「戻る必要はない。

前に出ろ」


客は深く頭を下げ、店を出ていった。


扉が閉まる。


俺は天井を見上げて、ぼそり。


「……次はどうせ

“初めてじゃないのに緊張します”

とか来るな」


クリム「きゅ(来る)」

ルゥ「わふ……(人間関係クエスト)」


やれやれ。


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