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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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94/112

夫がお使い出来ない人で…

昼下がり。

陽の角度が少し傾いて、

「今日はここまででもいいか」と思い始める時間。


クリムは棚の上で小瓶の列をじっと見つめ、

ルゥは入口で伏せたまま、外を歩く人の足音を数えている。


そこへ――


カラン。


入ってきた女性は、

ため息を飲み込むのが上手すぎる顔をしていた。


椅子に腰を下ろすと、

少しだけ迷ってから、静かに言う。


「……夫がお使い、出来ない人で……

お願いした物が、

“ちゃんと”買われてきた試しがないんです」


俺はすぐに返さない。

一拍、置く。


「“出来ない”って言い方をしたな」


女性は苦笑する。


「はい……

牛乳と卵だけ、って言っても

牛乳は違う銘柄、

卵はなぜか半ダースじゃなくて

高級そうなの一箱。

しかも肝心の卵、割れてたりして……」


クリムが「きゅ……(あるある)」と鳴き、

ルゥは「わふ(それは疲れる)」と低く鼻を鳴らした。


女性は続ける。


「悪気がないのは分かってるんです。

“良さそうだったから”って言うし、

“これでいいと思った”って……

でも……」


言葉が止まる。


俺は静かに促す。


「でも?」


「……もう、

説明するのも疲れてしまって……

“どうして分からないの?”って思う自分も嫌で……」


ああ。

これは“買い物”の話じゃない。


俺は腕を組んだ。


「確認する。

お前が一番しんどいのは、どれだ」


指を折る。


「①頼んだ物が揃わないこと

②やり直しが発生すること

③“ちゃんと伝わらない”感じ」


女性は即答した。


「③です」


だろうな。


クリムが「きゅ(核心)」

ルゥが「わふ(そこだ)」と頷く。


俺は棚から小瓶を三つ並べた。


「これは“夫を変える”ポーションじゃない。

“構図を変える”ためのやつだ」


◆一本目

【溜まった小さな苛立ちをほどくポーション】


「まずこれ。

この手の不満はな、

一つ一つは小さいのに、

積もると一気に重くなる」


女性は小さく息を吐く。


「……怒っていいのか、

我慢すべきか分からなくて……」


「怒りは“雑音”じゃない。

使いどころを間違えると爆発するだけだ」


◆二本目

【“お願い”を“共有タスク”に変えるポーション】


「次。

“お使いお願い”を

“手伝ってもらってる”構図から外す」


女性が眉をひそめる。


「……どういうことですか?」


「多くの家庭でな、

買い物は“補助タスク”扱いされてる。

だから“精度”が共有されない」


クリムが「きゅ(精度重要)」

ルゥが「わふ(仕様説明不足)」と鳴く。


俺は続ける。


「“これを買ってきて”じゃなく、

“この目的のために、これが必要”まで共有する。

それだけで、判断基準が一致する」


女性ははっとした顔をする。


「……私は、

“分かって当然”だと思ってました……」


「それは責められない。

だが“分かって当然”は、

共有されてないタスクで一番事故る」


◆三本目

【期待値を現実に合わせるポーション】


「最後。

“出来ない人”ってラベルを貼る前に、

“出来る範囲”を見極める」


女性は少し沈黙してから言う。


「……夫、

仕事ではすごく段取りいいんです」


「だろ」


俺は即答する。


「能力がないんじゃない。

“家庭内の仕様書”が渡ってないだけだ」


クリムが「きゅ(マニュアル)」

ルゥが「わふ(最新版な)」と鳴く。


俺は続けた。


「いいか。

お使いが出来ない人間なんていない。

あるのは――

“期待されてる完成形を知らない人”だけだ」


女性の肩が、ゆっくり下がった。


「……私、

夫を試すみたいに頼んでたのかもしれません」


「それに気づけたなら、十分だ」


俺は瓶を差し出す。


「今日はな、

“出来ない夫”を矯正する日じゃない。

“二人で仕様を合わせる日”にしろ」


女性は三本を受け取り、

少しだけ笑った。


「……今度は、

写真つきで頼んでみます」


「それでいい」


俺は肩をすくめる。


「家庭はな、

テストじゃなく共同作業だ」


女性が帰ったあと、

俺はカウンターに肘をついて、ぼそり。


「……次はどうせ

“写真送ったら違う棚から取ってきました”

とか来るな」


クリム「きゅ(続編)」

ルゥ「わふ……(改善フェーズ)」


やれやれ。



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