触るな、境界線を踏むな
夜。
店の灯りは少し落としてあって、
外は静か――のはずだった。
バーンッ!!
「お尻触ってくるやつ死ねー!!!」
俺は即座に言った。
「セクハラ!」
叫びながら入ってきた客は、
怒りで震えている。
クリムが「きゅっ!?(警報)」と跳ね、
ルゥは入口に立って、低く唸った。
俺はカウンター越しに、落ち着いた声で言う。
「深呼吸。
怒っていい。
でも“今”は守る話をする」
客は荒い息のまま頷いた。
「確認する。
触られたのは、意図せず?」
「完全に。
しかも“冗談”みたいな顔で」
「アウトだ」
即答だ。
俺は棚から小瓶を三つ並べる。
「これは“我慢する”薬じゃない。
“身を守って、次を止める”ためのやつだ」
◆一本目
【ショック後の神経クールダウンポーション】
「まずこれ。
触られた直後は、体が過敏になる。
“嫌だった”をちゃんと感じ切って、落ち着かせる」
客の呼吸が少し整う。
◆二本目
【境界線を言語化するポーション】
「次。
“やめてください”“触らないで”を
短く、はっきり出せる。
理由説明はいらない」
「……それ、言えなかった」
「言えなくていい。
でも“出せる”選択肢は持て」
◆三本目
【安全ルート可視化ポーション】
「最後。
距離の取り方、助けを呼ぶ先、
その場を離れる導線が見えやすくなる。
一人で抱えない」
クリムが「きゅ(一人で戦うな)」
ルゥが「わふ(守るのが最優先)」と鳴く。
俺は続けた。
「いいか。
触られるのは“気のせい”でも“冗談”でもない。
嫌だと感じた時点で、完全にアウトだ」
客の目が潤む。
「……私、
大げさじゃないですよね?」
「全然」
俺は首を振る。
「大げさなのは、
境界線を踏むほうだ」
客は深く息を吐き、瓶を受け取った。
「……今日は、
ちゃんと“やめて”って言います。
一人で帰らない」
「それでいい」
扉が閉まる。
俺は天井を見上げて、低く呟いた。
「……次はどうせ
“注意したら逆ギレされた”とか来るな」
クリム「きゅ(続編確定)」
ルゥ「わふ……(でも守る)」
やれやれ。




