レモンは武器じゃない(※使い方次第)
夜。
油と香草の匂いが、どこか懐かしい時間帯。
クリムは棚の上で香りに反応して鼻をひくひくさせ、
ルゥは入口で「揚げ物の話は荒れる」と悟った顔をしている。
そこへ――
カラン。
「……唐揚げに勝手にレモンかける奴を、滅殺したい」
俺は一拍置いてから言った。
「殺意が具体的すぎる」
「だって!!
まだ一個も食べてないのに!!
確認もなく!!
全体に!!
絞る!!」
クリムが「きゅ……(それは罪)」と鳴き、
ルゥは「わふ(同意だが落ち着け)」と尻尾を振る。
俺は腕を組む。
「確認だ。
今一番ムカついてるのはどれだ」
指を折る。
「①レモンの酸
②勝手にやる行為
③“聞いてくれない”感じ」
客は即答した。
「③!!」
「だろうな」
俺は棚から小瓶を三つ並べた。
「これは“味覚の問題”じゃない。
“境界線”の話だ」
◆一本目
【瞬間的殺意クールダウンポーション】
「まずこれ。
“今すぐ言い返したい”“睨みたい”を一段下げる。
勢いで言うと、唐揚げより人間関係が焦げる」
「……確かに」
◆二本目
【自分の好みを正当として保つポーション】
「次。
“レモン嫌い=心狭い”って刷り込みを外す。
好みは優劣じゃない。設定だ」
クリムが「きゅ(初期設定)」
ルゥが「わふ(変更不可)」と鳴く。
◆三本目
【穏やかに境界線を示すポーション】
「最後。
“次から一言聞いてくれる?”って
角立てずに言えるやつだ。
戦争を回避する」
客は三本を見つめ、肩の力が抜けた。
「……俺、
レモンが嫌なんじゃなくて、
“選ばせてもらえなかった”のが嫌だったんだな」
「正解」
俺は頷く。
「唐揚げはな、
共有物に見えて、
実は個人戦だ」
クリムが「きゅ(各自皿)」
ルゥが「わふ(和平条約)」と鳴く。
俺は続ける。
「滅殺はやめとけ。
代わりに“別皿で頼む”か
“自分の分確保”で勝て」
客は苦笑して瓶を受け取った。
「……今日は、
自分の唐揚げを守ります」
「それでいい」
扉が閉まる。
俺は天井を見上げて、ぼそり。
「……次はどうせ
“ポテトに塩勝手に振られた”
とか来るな」
クリム「きゅ(来る)」
ルゥ「わふ……(食卓戦争は続く)」
やれやれ。




