帰り道は、体力じゃなく気力を削ってくる
夕方と夜の境目。
店の外はまだ明るいのに、足取りだけが重くなる時間帯。
クリムは棚の上でだらっと伸び、
ルゥは入口に伏せて「今日はもう動きたくない」という顔をしている。
そこへ――
カラン。
「……帰り道がダルい。遠すぎる」
入ってきた客は、椅子に座るなり即それだった。
「家までどれくらいだ?」
「距離は大したことない。
でも……体感が長い」
「あー」
それは分かる。
距離の問題じゃない。
クリムが「きゅ……(精神距離)」と鳴き、
ルゥは「わふ(心が先に帰ってる)」と鼻を鳴らす。
俺は腕を組んだ。
「今日、何があった」
客は少し考えてから言う。
「別に大事件はない。
仕事して、気を遣って、
帰るころには“もう何もしたくない”」
「それで帰り道が長く感じる」
「そう」
俺は棚から小瓶を三つ出した。
「これは“ワープ”の薬じゃない。
“帰る工程をラクにする”やつだ」
◆一本目
【帰宅前の緊張をほどくポーション】
「まずこれ。
仕事モードのまま歩くと、
一歩一歩が重くなる。
切り替え用だ」
客がふっと息を吐く。
◆二本目
【意識を今に戻すポーション】
「帰り道に
“あれもこれも”考え始めると、
距離が倍になる。
これは“今歩いてるだけ”に戻す」
「……それ、効きそう」
◆三本目
【家に帰る理由を思い出すポーション】
「最後。
“帰らなきゃ”じゃなく
“帰りたい”に戻すやつだ。
理由は人それぞれだが、
思い出せるだけで足は軽くなる」
客は瓶を見つめて、少し笑った。
「……俺、
帰る道そのものが嫌なんじゃなくて、
“何も回復してない状態”で歩くのが嫌だったんですね」
「正解」
俺は頷く。
「人はな、
HPゼロで移動すると
距離が伸びる仕様だ」
クリムが「きゅ(仕様です)」
ルゥが「わふ(修正不可)」と鳴く。
俺は続けた。
「帰り道がダルい日は、
お前が怠けてるんじゃない。
今日、ちゃんと使い切っただけだ」
客は瓶を受け取り、立ち上がった。
「……帰れそうです」
「気をつけろよ」
扉が閉まる。
俺はカウンターに寄りかかり、ぼそり。
「……次はどうせ
“家着いた瞬間に全部やる気消えました”
とか来るな」
クリム「きゅ(確定)」
ルゥ「わふ……(続編待ち)」
やれやれ。




