約束は日付じゃなく、扱いで測る
夕方。
正月の浮かれた空気が少し抜けて、
街が現実に戻りはじめる時間。
クリムは棚の上で丸くなり、
ルゥは入口で伏せたまま、尻尾だけを動かしている。
そこへ――
カラン。
入ってきた客は、コートも脱がずに立ち尽くし、
ぽつりと言った。
「……クリスマスにプレゼントしてくれるって言ってたのに……
もう正月、越えてる……」
俺はすぐには返さなかった。
少しだけ、間を置く。
「……怒ってるか?」
「怒ってるっていうか……
悲しい……
期待してた自分が、バカみたいで……」
クリムが「きゅ……」と小さく鳴き、
ルゥは“これは静かな案件だ”という顔をした。
俺は腕を組む。
「確認だ。
プレゼントそのものが欲しかったか?」
客は首を振る。
「“覚えててくれた”って感じが欲しかった……」
あー。
そっちだな。
俺は棚から小瓶を三つ並べる。
「これは“待つため”の薬じゃない。
“自分を粗末にしないため”のやつだ」
◆一本目
【期待が裏切られた後の心を落ち着かせるポーション】
「まずこれ。
“がっかりした自分”を責めるのを止める。
期待したのは、悪いことじゃない」
客の目が揺れる。
◆二本目
【相手の行動を現実として見るポーション】
「言葉じゃなく、行動を見る。
“忙しかった”かもしれない。
でも“後回しにされた”可能性も、ちゃんと見る」
「……見たくなかった……」
「だから今、見る」
◆三本目
【自分の扱われ方を基準に戻すポーション】
「これが一番大事。
“私はどんな扱いをされたいか”を
ちゃんと思い出すためのやつだ」
客は三本を見つめ、しばらく黙ったあと、静かに言った。
「……私、
プレゼントが欲しかったんじゃなくて……
“大事にされてる実感”が欲しかったんですね」
「そうだな」
俺は即答する。
「物は象徴だ。
本体は“気にかけられてるか”だ」
クリムが「きゅ(本体大事)」
ルゥが「わふ(包装じゃない)」と鳴く。
俺は続けた。
「いいか。
“待てばくれるかも”って状態が一番削れる。
もらえなかった事実より、
宙ぶらりんの時間のほうがな」
客は深く息を吐いた。
「……話してみます。
ちゃんと」
「それでいい」
俺は肩をすくめる。
「プレゼントは遅れてもいい。
でも“気持ち”が遅れっぱなしなのは、
ちょっと考えどころだ」
客は小さく笑って、瓶を受け取った。
「……ありがとうございます」
「おう。
正月越えてもな、
自分の価値まで持ち越す必要はない」
客が帰ったあと、
俺は天井を見上げてため息ひとつ。
「……次はどうせ
“遅れてきたプレゼント、どう受け取ればいいですか”
とか来るな」
クリム「きゅ(続編確定)」
ルゥ「わふ……(恋愛シリーズ)」
やれやれ。




