愛情は手作りでも、味覚は自由でいい
昼下がり。
日差しは柔らかいのに、空気だけが妙に気まずい。
クリムは棚の上で瓶の影に隠れ、
ルゥは入口で伏せたまま、ため息をひとつ。
そこへ――
カラン。
「……あの、相談いいですか」
入ってきたのは、声の小さい客。
装備はきちんとしてるのに、表情が妙に追い詰められている。
「どうした」
「……お手製より、既製品が好きなんです」
俺は一拍置いた。
「味の話か?」
「味の話です……でも、心の話でもあります……」
あー。
これは重いやつだ。
クリムが「きゅ……(言いづらいやつ)」と鳴き、
ルゥは「わふ(地雷原)」と耳を伏せた。
客は続ける。
「作ってくれるのは嬉しいんです。
手間も時間もかけてくれてるの、分かってます。
でも……正直……」
「正直?」
「……あの味が……苦手で……」
俺は天井を見上げた。
「言えない理由は?」
「傷つけそうで……
“愛情が足りない”って思われそうで……
でも我慢して食べるのも、なんか違う気がして……」
はい、詰み。
俺は棚から小瓶を三つ並べた。
「これは“どっちが悪い”の話じゃない。
“どう伝えるか”と“どう受け取るか”の話だ」
◆一本目
【緊張をほどくポーション】
「まずこれ。
言い出す前の“胃のきゅううう”を緩める。
喉が詰まったまま話すと、余計こじれる」
客がこくこく頷く。
◆二本目
【本音を角立てずに言語化するポーション】
「“嫌い”じゃなくて
“自分の好み”として話せるようになる。
主語は“自分”だ。相手じゃない」
「……それ、欲しいです……」
◆三本目
【相手の努力をちゃんと受け取るポーション】
「これが一番大事。
“味が合わない”と
“気持ちを否定する”は別物だって、
ちゃんと心で分けられる」
客は三本を見つめて、少し笑った。
「……逃げじゃないですかね?」
「違う」
俺は即答した。
「我慢を続けるほうが、後で爆発する。
それは優しさじゃない」
クリムが「きゅ(長期ダメージ)」
ルゥが「わふ(関係悪化)」と鳴く。
俺は続けた。
「いいか。
愛情は“手作り”でも、
好みは“個人設定”だ。
そこを混ぜるな」
客は深く息を吐いた。
「……話してみます。
逃げずに」
「それでいい」
俺は肩をすくめる。
「最悪、
“今日は既製品の日”ってイベントにしろ。
ルールを作れば、戦争にならない」
客は笑って頭を下げ、店を出ていった。
扉が閉まる。
俺はカウンターに寄りかかり、ぼそり。
「……次はどうせ
“手作りを褒めすぎて毎日作られるようになった”
とか来るんだろ」
クリム「きゅ(ある)」
ルゥ「わふ……(確定)」
やれやれ。




