正月遊びは、負けても経験値が入らない
昼前。
店の外は正月特有の、
浮かれてるのかダレてるのか分からない空気。
クリムは棚の上でだらけ、
ルゥは入口で「まだ正月か……」という顔をしている。
そこへ――
カラン。
「なぁ店主。聞いてくれよ」
入ってきたのは、装備だけは一人前の冒険者。
「正月だからってさー、
家で昔ながらの遊びやれって言われてさ」
「羽根つきとか?」
「すごろくとか」
「凧揚げ?」
「全部!!」
俺は即答した。
「……クエストのが楽だな」
「だろ!?
ダンジョン行ったほうが達成感あるし、
失敗しても死なないし!!」
「いやダンジョンは死ぬ可能性あるだろ」
冒険者は机に突っ伏す。
「しかも負けるとさ、
“根性が足りない”とか
“集中力がない”とか言われるんだよ!!
運ゲーだろあれ!!!」
クリムが「きゅ……(理不尽)」と鳴き、
ルゥは「わふ(運要素高すぎ)」と同意する。
俺は腕を組んだ。
「で、本音は?」
「……クエスト行きたい」
「正直だな」
俺は棚から小瓶を三つ出す。
◆一本目
【昔遊び耐性ポーション】
「これ飲むと、
“意味の分からない敗北”に心が揺れにくくなる。
負けてもHP削られない」
「欲しい!!」
◆二本目
【周囲の期待を受け流すポーション】
「“若いんだから〜”
“男なら〜”
そういうのを右から左へ流せる」
「神か」
◆三本目
【正月イベント完走用ポーション】
「短時間だけ“参加してる感”が出る。
途中で抜けても
“ちゃんとやった扱い”になるやつだ」
冒険者は三本を抱きしめた。
「店主……
これで今年、生きていける……」
「いいか」
俺は指を一本立てる。
「正月の遊びはな、
楽しまなきゃいけない義務じゃない。
“付き合っただけで経験値入った”と思え」
冒険者ははっとして、笑った。
「……それ、クエスト報告に使えます?」
「使える。
“社会的イベント参加:成功”だ」
クリムが「きゅっ(レア実績)」
ルゥが「わふ(報酬なし)」と鳴いた。
冒険者は軽くなった足取りで帰っていく。
扉が閉まり、俺は肩を回す。
「……正月はな、
遊びより“無事に乗り切る”がクリア条件だ」
さて次は――
「親戚トークを回避するポーション」
とか来るな、たぶん。
……やれやれ。




