夢は寝てる間に、勝手に来る
深夜と早朝のあいだ。
店の灯りは半分だけ。
クリムは棚の上で毛玉になり、
ルゥは入口で丸くなって、たまに尻尾だけ動かしている。
俺は帳簿を閉じたところだった。
そこへ――
カラン。
静かに入ってきた客が、遠慮がちに言った。
「……初夢……みたことないんですよね……
一回くらい、みてみたい」
俺はペンを置いて、顔を上げる。
「正月だからって、
夢は義務じゃないぞ」
「分かってるんですけど……
みんな“いい夢だった”とか“縁起がどう”とか言うじゃないですか……
俺、いつも“寝たら朝”で……」
クリムが「きゅ……」と同情し、
ルゥが「わふ(意外と多い)」と小さく鳴いた。
俺は少し考えてから言う。
「まず確認だ。
“見たい”のは、夢か?
それとも“ちゃんと休めてる実感”か?」
客は一瞬黙って、ぽつり。
「……後者、かもしれないです」
「だろうな」
俺は棚から小瓶を三つ並べた。
「夢は“作るもの”じゃない。
“入り口を整える”ものだ」
◆一本目
【帰宅後の緊張をほどくポーション】
「これ。
寝る前まで気が張ってると、
脳が“夢どころじゃない”状態になる。
まずは“今日は終わった”って身体に教える」
客が小さく頷く。
◆二本目
【一日の終わりに頭を切り替えるポーション】
「次。
反省会とか、明日の心配とか、
全部ここで区切る。
夢は“余白”に入り込むからな」
「……余白……」
◆三本目
【夢を邪魔しない安心感を残すポーション】
「最後。
無理に“夢を見せる”んじゃない。
“見てもいいし、見なくても大丈夫”って状態を作る」
客は三本を見つめて、少し笑った。
「……見られなくても、いいんですね」
「ああ」
俺は軽く肩をすくめる。
「夢ってのはな、
“見よう”とすると逃げるし、
“なくてもいい”と思った夜に、ふらっと来る」
クリムが「きゅ(照れ屋)」と鳴き、
ルゥが「わふ(猫みたいだな)」と欠伸した。
客は瓶を大事そうに受け取る。
「ありがとうございます……
今年は、“ちゃんと休む”ところから始めます」
「それが一番縁起いい」
客が帰ったあと、
俺は棚を眺めて小さく呟く。
「……初夢より、
朝ちゃんと起きられたほうが勝ちだろ」
クリム「きゅ(完全同意)」
ルゥ「わふ(夢はオマケ)」
さて次は――
どうせ
「初夢で嫌なやつ見たんで上書きしたい」
とか来るんだろうな。
……やれやれ。




