2026年 正月の朝。
店の扉は開いているのに、
街の空気がどこか寝ぼけている。
クリムは棚の上で餅みたいに丸くなり、
ルゥは入口で「今日は人来るのか?」みたいな顔をしている。
俺は湯気の立つカップを片手に、カウンターにもたれていた。
そこへ――
カラン。
勢いよく入ってきた常連が叫ぶ。
「店主!!
正月なのに実感が湧かない!!
一発効くやつください!!」
俺は即座に返す。
「落ち着け。
正月は逃げない」
「でも!!
昨日と今日の差が分からない!!
気持ちが追いつかない!!」
「あー……あるあるだな」
クリムが「きゅ(年跨いだだけ)」とでも言いたげに鳴き、
ルゥは「わふ(暦の暴力)」みたいな顔をした。
俺は棚から小瓶を三つ並べる。
「一発は無理だ。
だから“段階的に効くやつ”な」
◆一本目
【朝の現実に戻るポーション】
「まずこれ。
寝正月でズレた体内時計を戻す。
“今日は今日だ”って感覚を身体に思い出させる」
「ほ、ほう……」
◆二本目
【去年を置いていくポーション】
「次は頭の中。
“やり残し”“後悔”“未達”を
今日だけ棚上げするやつだ。
反省会は来週でいい」
「それ欲しかったやつ!!」
◆三本目
【今年を怖がりすぎないポーション】
「最後。
抱負とか目標とか、
重く考えすぎると動けなくなるだろ。
“とりあえず生きる”くらいの気持ちに戻す」
常連は三本を見つめて、ふっと笑った。
「……あ、なんか正月来た気がする」
「それでいい。
正月なんて“実感したら負け”くらいでちょうどいい」
そのとき。
カラン、カラン、バーン!
仲間や常連がどやどや入ってくる。
「店主ー!飲み物ー!」
「まだ正月休み気分だぞー!」
「去年は世話になったな!」
クリムが棚の上で跳ね、
ルゥが嬉しそうに尻尾を振る。
俺はカウンターの向こうで肩をすくめた。
「やれやれ……
今年も騒がしいな」
誰かが声を上げる。
「せーの!」
店の中、全員で。
「「「明けましておめでとう!!!」」」
笑い声が弾み、
新しい年が、ようやくこの店にもやってきた。
……さて。
今年もぼちぼち、
やっていきますか。




