それでも今日も、扉は鳴る
朝の光は、やさしい。
店の窓から差し込む日差しが、
棚の小瓶を順番に照らしていく。
昨日までの張りつめた空気は、もうない。
クリムは棚の上で毛玉になり、
ルゥは入口で伸びをしてから、
いつもの定位置に落ち着いた。
俺はカウンターを拭きながら、
深く息を吸う。
――ああ、戻ってきたな。
日常に。
カラン。
扉が鳴る。
「店主ー!聞いてくれ!」
「腰にくるやつある?」
「いや俺は肩!」
「二日酔い!二日酔い!」
常連がどやどや入ってくる。
勝手知ったる顔ぶれ。
勝手に座り、勝手に喋る。
俺はため息混じりに言う。
「順番に来い。
ここは闘技場じゃない」
笑い声。
軽口。
瓶の触れ合う音。
この雑然とした空気が、
何よりの証拠だ。
――全部、ちゃんと帰ってきた。
その時だった。
バーン!!
勢いよく扉が開く。
風と一緒に、
一人の女性が飛び込んでくる。
息は荒く、
目は本気。
「店主!!!」
「……はい」
「今すぐ!!
ボンキュッボンなボディが欲しい!!!」
店内が、一瞬で静まった。
クリム「きゅ?」
ルゥ「わふ?」
女性は拳を握りしめ、叫ぶ。
「私を振った男を!!
絶対に!!
見返すの!!!」
……あー。
俺は額を押さえた。
「落ち着け。
まず椅子に座れ」
「座ってられない!!」
「座れ」
女性は、渋々座る。
俺はカウンター越しに、
まっすぐ彼女を見る。
「言っとくがな。
“今すぐ理想の体になる薬”はない」
「えっ」
「あるなら俺が飲んでる」
常連が吹き出す。
女性は唇を噛む。
「……じゃあ……
私、負けたまま?」
俺は首を振った。
「違う」
棚から小瓶を三つ並べる。
「見返すってのはな、
“相手の価値観で勝つ”ことじゃない」
女性が、きょとんとする。
「自分の人生を、
ちゃんと生きてる姿を見せることだ」
小瓶を指で軽く叩く。
「身体を整える補助はする。
自信を保つ手助けもする。
でも――」
一拍、置く。
「お前の価値は、
誰かを後悔させた量で決まらない」
女性の目が、少し揺れた。
クリムが「きゅっ」と鳴き、
ルゥが足元に寄り添う。
店内の空気が、
ゆっくり戻っていく。
女性は深く息を吸い、
小さく笑った。
「……じゃあ、
ちゃんと前向くやつ、ください」
「おう。
それが一番効く」
瓶を渡すと、
彼女は背筋を伸ばして立ち上がった。
扉が閉まる。
常連たちが口々に言う。
「相変わらずだなぁ」
「説教くさいけど、嫌いじゃない」
「むしろ癖になる」
俺は肩をすくめた。
「商売だからな」
クリムが丸まり、
ルゥが尻尾を振る。
今日も、
店の灯りは消えない。
「……さて」
俺は棚を見渡し、
小さく笑った。
「次はどうせ
“人生を一発逆転したい”とか来るんだろ」
……やれやれ。
でも来たら来たで、
ちゃんと向き合うけどさ。
――だって、ここは
ポーション屋だからな。
良いお年をお迎えください
(*・ω・)*_ _)ペコリ




