初詣は神様より、まず自分を拝め
夕方前。
外はまだ正月の空気が残っていて、
通りを歩く人の足取りだけが少し重い。
クリムは棚の上で尻尾を巻き、
ルゥは入口で伏せたまま、耳だけこちらに向けている。
そこへ――
バーンッ!!
扉が乱暴に開いた。
「信じらんない!!
彼がドタキャンしたと思ったら――
私以外の女と初詣いってた!!!」
俺は反射的に言った。
「……寒かったろ」
「そこ!?!?」
「いや、大事だぞ。
怒りは体温下がるからな」
女性はカウンターに両手をつき、肩で息をする。
「約束してたんです!
一緒に行こうって!!
“年明けは二人で”って!!」
クリムが「きゅ……」と心配そうに鳴き、
ルゥは「わふ(地雷踏んだな)」という顔をした。
俺は深く息を吐く。
「で、確認するが――
今一番欲しいのはどれだ」
指を折る。
「①相手を呪う力
②真実を聞く勇気
③このモヤモヤを今すぐ下げる」
女性は即答した。
「③!!!」
「だろうな」
俺は棚から小瓶を三つ並べる。
「これは“恋の是非”を決める回じゃない。
“今の自分を守る回”だ」
◆一本目
【怒りの熱を下げるポーション】
「まずこれ。
怒りは正当でも、
そのまま抱えてると“自分だけ削れる”。
火消しだ」
女性が小さく息を吐く。
◆二本目
【比較地獄から引き戻すポーション】
「次。
“自分よりあの女が選ばれた”って考え始めると、
地獄に直行する。
これは“主語を自分に戻す”やつだ」
「……それ、今まさに……」
◆三本目
【自分を雑に扱った相手から一歩離れるポーション】
「最後。
“許す”ためじゃない。
“判断を急がない距離”を作るためのやつだ」
女性は三本を見つめ、しばらく黙ったあと、ぽつり。
「……私、
怒っていいですよね?」
「当然だ」
俺は即答する。
「約束破られて、
しかも別の女と初詣。
それで怒らないなら、人間やめてる」
クリムが「きゅ!(正論)」と鳴き、
ルゥが「わふ(全面支持)」と尻尾を振る。
俺は続けた。
「ただな、
“怒りながら自分を粗末にする”のだけはやめろ。
神社行く前に、
まず自分を大事にしろ」
女性の目が、少し潤んだ。
「……ありがとう……
ちょっと、落ち着いて考えます」
「それでいい」
俺は肩をすくめる。
「初詣はな、
誰と行くかより
“一年どう扱われるか”を考える場所だ」
女性は深く頭を下げ、瓶を抱えて出ていった。
扉が閉まる。
俺は天井を見上げて、ため息ひとつ。
「……正月から恋愛案件は重いな」
クリム「きゅ(心が冷える)」
ルゥ「わふ……(甘酒飲め)」
さて次は――
どうせ
「その後、連絡が来たんですけどどう返すべきですか」
とかだろ。
……やれやれ。




