洗っても洗っても頭皮が臭う
夕方。
外は風が冷たくなりはじめ、
店の中は静かだ。
クリムは棚の上で前足をそろえ、
ルゥは入口で伏せている。
カラン。
「洗っても洗っても頭皮が臭う!!」
「声がでかい」
客は両手で頭を抱えたまま続ける。
「毎日洗ってる!
ちゃんと泡立ててる!
二度洗いもしてる!!
なのに……夕方になると……!!」
クリムが「きゅ……(深刻)」
ルゥが「わふ……(本人つらい)」と距離を保つ。
俺は腕を組む。
「で、本音は?」
客は少し黙ってから言った。
「……清潔にしてるのに、
だらしない人みたいに思われそうで……」
あー。
匂いそのものより、評価不安だな。
俺は小瓶を三つ並べた。
⸻
◆一本目
【洗いすぎを止めるポーション】
「まずこれ」
瓶を指で軽く叩く。
「頭皮の臭いはな、
汚れじゃなく“守りすぎ”で出ることが多い」
客が目を見開く。
「洗いすぎると、
皮脂が慌てて増える」
クリムが「きゅ(逆効果)」。
「これは、
“必要な分だけ残す”感覚を戻すやつだ」
⸻
◆二本目
【頭皮の巡りを整えるポーション】
「次」
俺ははっきり言う。
「臭いは、
溜まりのサインだ」
ルゥが「わふ(血行)」と鼻を鳴らす。
「これは、
皮脂も汗も“出たら流れる”状態に戻す」
⸻
◆三本目
【匂いを“人格評価”に変換しないポーション】
客が一番食いついた。
「それ、欲しいです……」
「だろ」
俺は静かに言う。
「匂い=だらしない、
じゃない」
瓶を押し出す。
「体調、ストレス、生活リズム。
匂いは“結果”であって、
人柄じゃない」
⸻
客は三本を見つめ、長く息を吐いた。
「……俺、
必死で洗って、
余計追い詰めてました」
「よくある」
俺は肩をすくめる。
「清潔にしようとする人ほど、
この罠にハマる」
客は小さく笑った。
「……ください。
ちゃんと整えたいです」
「おう」
瓶を渡す。
「臭いはな、
消すもんじゃない。
“整える”もんだ」
客は頭を下げて出ていった。
扉が閉まる。
俺は天井を見上げて、ため息ひとつ。
「……身体のサインを
敵扱いする人、多いよな」
クリム「きゅ(味方)」
ルゥ「わふ……(聞け)」
まったく。
次はどうせ「自分の匂いが気になって外出できません」系が来るんだろうな。
……やれやれ。
でも来たら来たで、ちゃんと向き合うけどさ。




