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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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66/111

口付けは、距離が縮んだあとに起きる

昼下がり。

店内は平和で、クリムは棚の上、

ルゥは入口で日向を選んで丸くなっていた。


――その平和を、破った声。


カラン!


「口付けしたくなるポーションください!」


「騎士団に通報案件きたな」


即答。


客は慌てて両手を振る。


「ち、違う!違うんです!

相手の意思を無視するやつじゃなくて!

こう……雰囲気というか……空気というか……!」


クリムが「きゅ……(言い訳下手)」、

ルゥが「わふ……(落ち着け)」と見守る。


俺は腕を組む。


「で、本音は?」


客は視線を泳がせて、ぽつり。


「……距離、縮めたいだけなんです」


「あー」


あるある。


「いきなり“口付け”に行くからおかしくなる」


客はしょんぼりする。


「だって……何からすればいいかわからなくて……」


俺は棚から小瓶を三つ並べた。



◆一本目

【帰宅後の緊張をほどくポーション】


「まずこれ」


瓶を指で軽く叩く。


「緊張してるやつの周りはな、

空気が硬い」


クリムが「きゅ(こわばり)」。


「これで肩の力を抜け。

近づきやすくなるのは、まずそこからだ」



◆二本目

【一日の終わりに頭を切り替えるポーション】


「次」


客が身を乗り出す。


「“どう思われるか”を考えすぎると、

距離は逆に遠くなる」


ルゥが「わふ(考えすぎ)」と鼻を鳴らす。


「これはな、

相手と話す“今”に集中できるようにするやつだ」



◆三本目

【非生命体への愛着をちゃんと満たすポーション】


客が首をかしげる。


「……それ、関係あります?」


「大ありだ」


俺は真顔だ。


「寂しさを人に全部向けると、

距離を詰めすぎる」


瓶を押し出す。


「これは、

“一人で満たせる安心”を作る」


「安心があると、

人には“余白”を渡せる」



客は三本を見つめ、ゆっくり息を吐いた。


「……口付けって、

結果なんですね」


「そうだ」


俺は頷く。


「縮んだ距離の、

“おまけ”だ」


客は照れたように笑った。


「……ください。

まず、ちゃんと近づきたいです」


「おう」


瓶を渡す。


「焦るな。

距離は、急ぐと壊れる」


客は深く頭を下げて出ていった。


扉が閉まる。


俺は天井を見上げて、ため息ひとつ。


「………今日は通報案件にならずに済んだな」


クリム「きゅ(アウト)」

ルゥ「わふ……(即通報)」


まったく。

次はどうせ「手を繋ぐタイミング教えてください」だろうな。


……やれやれ。

でも来たら来たで、ちゃんと向き合うけどさ。

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