口付けは、距離が縮んだあとに起きる
昼下がり。
店内は平和で、クリムは棚の上、
ルゥは入口で日向を選んで丸くなっていた。
――その平和を、破った声。
カラン!
「口付けしたくなるポーションください!」
「騎士団に通報案件きたな」
即答。
客は慌てて両手を振る。
「ち、違う!違うんです!
相手の意思を無視するやつじゃなくて!
こう……雰囲気というか……空気というか……!」
クリムが「きゅ……(言い訳下手)」、
ルゥが「わふ……(落ち着け)」と見守る。
俺は腕を組む。
「で、本音は?」
客は視線を泳がせて、ぽつり。
「……距離、縮めたいだけなんです」
「あー」
あるある。
「いきなり“口付け”に行くからおかしくなる」
客はしょんぼりする。
「だって……何からすればいいかわからなくて……」
俺は棚から小瓶を三つ並べた。
⸻
◆一本目
【帰宅後の緊張をほどくポーション】
「まずこれ」
瓶を指で軽く叩く。
「緊張してるやつの周りはな、
空気が硬い」
クリムが「きゅ(こわばり)」。
「これで肩の力を抜け。
近づきやすくなるのは、まずそこからだ」
⸻
◆二本目
【一日の終わりに頭を切り替えるポーション】
「次」
客が身を乗り出す。
「“どう思われるか”を考えすぎると、
距離は逆に遠くなる」
ルゥが「わふ(考えすぎ)」と鼻を鳴らす。
「これはな、
相手と話す“今”に集中できるようにするやつだ」
⸻
◆三本目
【非生命体への愛着をちゃんと満たすポーション】
客が首をかしげる。
「……それ、関係あります?」
「大ありだ」
俺は真顔だ。
「寂しさを人に全部向けると、
距離を詰めすぎる」
瓶を押し出す。
「これは、
“一人で満たせる安心”を作る」
「安心があると、
人には“余白”を渡せる」
⸻
客は三本を見つめ、ゆっくり息を吐いた。
「……口付けって、
結果なんですね」
「そうだ」
俺は頷く。
「縮んだ距離の、
“おまけ”だ」
客は照れたように笑った。
「……ください。
まず、ちゃんと近づきたいです」
「おう」
瓶を渡す。
「焦るな。
距離は、急ぐと壊れる」
客は深く頭を下げて出ていった。
扉が閉まる。
俺は天井を見上げて、ため息ひとつ。
「………今日は通報案件にならずに済んだな」
クリム「きゅ(アウト)」
ルゥ「わふ……(即通報)」
まったく。
次はどうせ「手を繋ぐタイミング教えてください」だろうな。
……やれやれ。
でも来たら来たで、ちゃんと向き合うけどさ。




