仕事納めしてない人のための年末
夕方。
外はもう完全に“休みモード”の匂いがする。
クリムは棚の上で丸くなり、
ルゥは入口で通りを見ながら、何度目かのため息。
カラン。
「もうダメだ!!」
「なにが?」
「限界なんだ!!」
「だから何が?」
「俺の職場以外は仕事納め!
やれ実家へ行くだの!
帰省だの!
忘年会だの!!」
……はい。
「俺は!!
仕・事・な・の・に!!!」
叫び切って、客は肩で息をした。
クリムが「きゅ……(それはつらい)」
ルゥが「わふ……(孤立)」と同時に同情する。
俺は腕を組む。
「で、本音は?」
客は一瞬黙ってから、吐き捨てるように言った。
「……世間から取り残された感じがする」
あー。
それだ。
俺は小瓶を三つ、年末仕様で並べた。
⸻
◆一本目
【周囲の“浮かれオーラ”を遮断するポーション】
「まずこれ」
瓶は落ち着いた色だ。
「年末はな、
他人の休みがやたら眩しく見える」
客が頷く。
「これは、
“自分は今やる役割がある”って感覚を取り戻すやつだ」
クリムが「きゅ(比べるな)」。
⸻
◆二本目
【仕事を“損”だと思わなくするポーション】
「次」
俺ははっきり言う。
「この時期に働いてる人間がいなきゃ、
世の中は回らん」
ルゥが「わふ(真理)」と鼻を鳴らす。
「これは、
“自分だけ働いてる”を
“自分が支えてる”に変換する」
⸻
◆三本目
【終わったあとに、ちゃんと報われる感覚を残すポーション】
客が身を乗り出す。
「これが一番大事だ」
瓶を押し出す。
「仕事納めしてないやつはな、
“年末感”を自分で作らないと、
心が置いていかれる」
「……確かに」
「これは、
仕事終わりの一杯、
帰宅後の静かな時間、
そういう“自分の年末”をちゃんと味わわせる」
⸻
客は三本を見つめて、ゆっくり息を吐いた。
「……俺、
損してると思ってました」
「思いがちだ」
俺は肩をすくめる。
「でもな、
働いてるやつがいるから、
休めるやつがいる」
客は少し背筋を伸ばした。
「……ください。
今年をちゃんと終えたいです」
「おう」
瓶を渡す。
「仕事納めしてなくてもな、
一年を終える資格はある」
客は深く頷いて店を出ていった。
扉が閉まる。
俺は天井を見上げて、ため息ひとつ。
「……年末は、
休んでる人より、
働いてる人のほうが偉いって
誰かもっと言えばいいのにな」
クリム「きゅ(ほんとそれ)」
ルゥ「わふ……(声に出せ)」
まったく。
次はどうせ「年明け早々シフトです」って来るんだろうな。
……やれやれ。
でも来たら来たで、ちゃんと向き合うけどさ。




