クエストは逃げないが、母ちゃんは強い
昼下がり。
外は穏やかだが、店内は静かすぎて嫌な予感がする。
クリムは棚の上で丸まり、
ルゥは入口で日向ぼっこ――その瞬間。
カラン!
「許せない!!」
「どうした?」
勢いよく入ってきた青年冒険者、拳を握りしめている。
「母ちゃんが!!
魔道具ばっかりしてないでクエストやれって!!」
……ああ。
「……それは、まぁ」
「聞いてくれます!?
こっちは情報収集してるんですよ!
効率化! 最適化!
それを“怠けてる”って!!」
クリムが「きゅ……(母強い)」、
ルゥが「わふ……(勝てない)」と察した顔。
俺は腕を組む。
「で、本音は?」
青年は一瞬だけ言葉に詰まってから、吐き出した。
「……心配されてるのは、わかるんですけど……
口出しされると、やる気が削がれるというか……
自分のペースが……」
「あー」
あるあるだ。
俺は小瓶を三つ並べた。
⸻
◆一本目
【言われた言葉を“攻撃”に変換しないポーション】
「まずこれ」
瓶を指で軽く叩く。
「親の言葉ってな、
内容より“言い方”でダメージ入る」
青年が苦い顔で頷く。
「これは、
“心配”と“命令”を分けて受け取れるようにするやつだ」
⸻
◆二本目
【自分のペースを取り戻すポーション】
「次」
「母ちゃんの声が頭に残るんです……」
「残るな」
俺は即答する。
「これは、
“自分は自分で進んでる”って感覚を戻す」
ルゥが「わふ(大事)」と尻尾を振る。
⸻
◆三本目
【親に説明するとき言葉が荒れないポーション】
青年が目を見開く。
「そんなのあるんですか!?」
「ある」
俺は真顔だ。
「感情のまま返すと、
親子喧嘩は長期戦になる」
瓶を押し出す。
「これは、
“ちゃんとやってる”を落ち着いて言えるようにする」
⸻
青年は三本を見つめ、深く息を吐いた。
「……母ちゃん、
クエストで死ぬのが一番怖いんでしょうね」
「だろうな」
俺は肩をすくめる。
「口うるさいのは、
だいたい心配の裏返しだ」
青年は苦笑した。
「……ください。
今日は一回、ちゃんと話してみます」
「おう」
瓶を渡す。
「クエストは逃げない。
でも親は、年取る」
青年は少し照れた顔で店を出ていった。
扉が閉まる。
俺は天井を見上げて、ため息ひとつ。
「……親子案件はな、
魔物より難易度高い」
クリム「きゅ(強敵)」
ルゥ「わふ……(ボス級)」
まったく、
次はどうせ「母ちゃんがギルドに直談判してきました」とか来るんだろうな。
……やれやれ。
でも来たら来たで、ちゃんと向き合うけどさ。




