涙は宝石じゃない
昼下がり。
日差しが強く、瓶の中身がやけにきらきらして見える時間帯。
――そこへ。
カラン。
眩い美形が入ってきた。
というか、発光してる。
高級な外套、背筋の通った立ち姿、
そして――妙に距離感の近い視線。
後ろから、空気がねっとりしている。
「ここが、かの有名なポーション屋か?」
粘着気質を隠す気のない、公爵様だ。
俺はいつも通り返す。
「噂はわからないが。
ポーションは取り扱っている」
美形――レオが、こほんと咳払いをする。
「フローラ……いや、
私だけの唯一の愛しい妻についてだ」
「はい」
余計なことは言わない。
こういうときは、聞くに限る。
レオは真顔で言った。
「飲めば、
流した涙を固める。
宝石のように残せるようなポーションはないか?」
――――。
俺は一拍、置いた。
(……流した涙を、収集したい!?)
クリムが棚の上で「きゅ……(危険)」、
ルゥが入口で「わふ……(撤退案件)」と低く唸る。
俺は即答した。
「ない」
「……」
「それはない」
レオが目を細める。
「愛の証だ。
彼女の涙は尊く、美しい。
形として残したいだけだが?」
「それを“所有”って言う」
ぴしっと言い切る。
「涙はな、
感情の排水だ。
固めて保存するもんじゃない」
レオが少し、面食らった顔をした。
「……では、
私はどうすればいい?」
――ここからが仕事だ。
俺は小瓶を三つ、静かに並べた。
⸻
◆一本目
【泣いた後の身体を守るポーション】
「まずこれ」
瓶は淡く、柔らかい色。
「涙はな、
心だけじゃなく身体も削る」
俺ははっきり言う。
「泣いた本人が回復するためのもんだ。
第三者が回収するものじゃない」
クリムが「きゅ(本人優先)」と頷く。
⸻
◆二本目
【感情を“溜め込まない距離”を作るポーション】
「次」
レオが眉をひそめる。
「これは?」
「お前が飲む」
はっきり言う。
「愛してるからって、
感情のすべてに近づくな」
ルゥが「わふ(近すぎ)」と床に伏せる。
「涙を見るたびに“自分のもの”にしたくなるなら、
距離が狂ってる」
⸻
◆三本目
【寄り添った“あと”を残すポーション】
レオが身を乗り出す。
「これは……?」
「涙の代わりだ」
俺は静かに言う。
「泣いたあと、
一緒に座った時間、
黙って隣にいた感覚、
それを“残るもの”にする」
瓶を押し出す。
「宝石にしたいなら、
涙じゃなくて、
その後の時間にしろ」
⸻
長い沈黙。
レオは三本を見つめ、やがて深く息を吐いた。
「……私は、
彼女の悲しみまで所有したかったのかもしれない」
「よくある」
俺は肩をすくめる。
「愛が強いほど、
境界線を見失う」
レオは静かに頷いた。
「……その三本をもらおう」
「おう」
瓶を渡す。
「泣かせない努力より、
泣いたあとに何をするかのほうが大事だ」
レオは一礼して去っていった。
扉が閉まる。
俺は肩を回す。
「……涙を宝石にしようとするのは、
だいたい不安が原因だ」
クリム「きゅ(収集癖)」
ルゥ「わふ……(次は来るな)」
「『笑顔を瓶詰めにしたい』とか」
……やれやれ。
愛が重い客ほど、
丁寧に扱わないとな。
レオは相変わらずフローラの流す涙が好きなんですね




