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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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56/112

羨ましい夜には、浮き足を地面に戻す

夕方。

窓の外が、やけにオレンジ色だ。

街のあちこちで灯りが入りはじめる時間帯。


クリムは棚の上で毛づくろいをやめ、

ルゥは入口で、通りを行き交う人の足取りを見ている。


カラン。


「はっ、どいつもこいつも浮き足立ってやがる」


入ってきた客は、コートの前をきっちり閉めたまま、眉間に皺。


「本音は?」


即、聞いた。


客は一瞬だけ視線を逸らしてから、吐き出す。


「……心底、羨ましい!」


「あー」


分かる。

今日はクリスマスイブだ。


外は笑顔、手提げ袋、赤い包装紙。

なのに一人で歩いてると、空気だけがやけに眩しい。


「まぁ、クリスマスイブの空気感の居た堪れなさはわかる」


客は肩を落とす。


「誰かと約束があるわけでもないし、

予定がないわけじゃないけど……

“浮かれていい側”じゃない感じがして」


クリムが「きゅ……(分かる)」、

ルゥが「わふ(分かる)」と同時にため息。


俺は小瓶を三つ、静かに並べた。



◆一本目

【外の空気に振り回されないポーション】


「まずこれ」


瓶は透明で、匂いもほとんどない。


「今日はな、

“特別な日”の空気が強すぎる」


客が頷く。


「これは、

他人のテンションを借りないでいられるやつだ」



◆二本目

【自分の時間に戻るポーション】


「次」


俺は時計を指でトントン叩く。


「夜は夜、

誰かのイベントじゃなく、

“自分の一日”を締める時間だ」


ルゥが「わふ(取り戻せ)」と床に伏せる。



◆三本目

【羨ましさを“悪くない感情”に変えるポーション】


客が少し驚いた顔をする。


「羨ましいってな、

欲張りじゃない。

“ちゃんと欲しいものがある”って証拠だ」


瓶を押し出す。


「これは、

それを自分に向け直すやつだ」



客は三本を見つめて、ふっと笑った。


「……羨ましいって言っていいんですね」


「言っていい。

ただし、自分を殴る材料にするな」


客は深く息を吐く。


「ください。

今夜は、俺の夜にします」


「おう」


瓶を渡す。


「明日になればな、

街は急に静かになる。

今日だけだ、この空気」


客はコートを整えて出ていった。


扉が閉まる。


外はすっかり暗く、

通りの灯りがきらきらしている。


俺は肩を回す。


「……さて、次は来るな」


クリム「きゅ?」


「『朝起きたら全部終わってて虚無です』って」


ルゥ「わふ……(ありえる)」


やれやれ。

時間帯が変われば、悩みも変わる。

だからこの店は、朝でも昼でも夜でも深夜でも、開いてる気分なんだよな。


さて――

次はどの時間の扉が鳴るかな。



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