羨ましい夜には、浮き足を地面に戻す
夕方。
窓の外が、やけにオレンジ色だ。
街のあちこちで灯りが入りはじめる時間帯。
クリムは棚の上で毛づくろいをやめ、
ルゥは入口で、通りを行き交う人の足取りを見ている。
カラン。
「はっ、どいつもこいつも浮き足立ってやがる」
入ってきた客は、コートの前をきっちり閉めたまま、眉間に皺。
「本音は?」
即、聞いた。
客は一瞬だけ視線を逸らしてから、吐き出す。
「……心底、羨ましい!」
「あー」
分かる。
今日はクリスマスイブだ。
外は笑顔、手提げ袋、赤い包装紙。
なのに一人で歩いてると、空気だけがやけに眩しい。
「まぁ、クリスマスイブの空気感の居た堪れなさはわかる」
客は肩を落とす。
「誰かと約束があるわけでもないし、
予定がないわけじゃないけど……
“浮かれていい側”じゃない感じがして」
クリムが「きゅ……(分かる)」、
ルゥが「わふ(分かる)」と同時にため息。
俺は小瓶を三つ、静かに並べた。
⸻
◆一本目
【外の空気に振り回されないポーション】
「まずこれ」
瓶は透明で、匂いもほとんどない。
「今日はな、
“特別な日”の空気が強すぎる」
客が頷く。
「これは、
他人のテンションを借りないでいられるやつだ」
⸻
◆二本目
【自分の時間に戻るポーション】
「次」
俺は時計を指でトントン叩く。
「夜は夜、
誰かのイベントじゃなく、
“自分の一日”を締める時間だ」
ルゥが「わふ(取り戻せ)」と床に伏せる。
⸻
◆三本目
【羨ましさを“悪くない感情”に変えるポーション】
客が少し驚いた顔をする。
「羨ましいってな、
欲張りじゃない。
“ちゃんと欲しいものがある”って証拠だ」
瓶を押し出す。
「これは、
それを自分に向け直すやつだ」
⸻
客は三本を見つめて、ふっと笑った。
「……羨ましいって言っていいんですね」
「言っていい。
ただし、自分を殴る材料にするな」
客は深く息を吐く。
「ください。
今夜は、俺の夜にします」
「おう」
瓶を渡す。
「明日になればな、
街は急に静かになる。
今日だけだ、この空気」
客はコートを整えて出ていった。
扉が閉まる。
外はすっかり暗く、
通りの灯りがきらきらしている。
俺は肩を回す。
「……さて、次は来るな」
クリム「きゅ?」
「『朝起きたら全部終わってて虚無です』って」
ルゥ「わふ……(ありえる)」
やれやれ。
時間帯が変われば、悩みも変わる。
だからこの店は、朝でも昼でも夜でも深夜でも、開いてる気分なんだよな。
さて――
次はどの時間の扉が鳴るかな。




