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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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54/112

人生に効く薬は、静かだ

カラン。


「……疲れた」


「どんな風に?」


「人生に」


それだけ言って、客は椅子に腰を下ろした。

年齢も職業も、今はどうでもいい顔だった。

重たい荷物を置くみたいに、ため息だけが落ちる。


クリムは棚の上で丸くなり、

ルゥは足元に伏せて、音を立てない。


俺は急がない。


「……最近、何が一番しんどい?」


「全部が同じ重さで、

どれが原因か分からないのが、いちばん」


ああ。

疲れ切ったときの言葉だ。


俺は小瓶を三つ、そっと並べた。



◆一本目

【帰宅後の緊張をほどくポーション】


「まずこれ」


瓶は淡い色で、香りも控えめだ。


「一日中、気を張ってると、

家に帰っても“仕事のまま”になる」


客は黙って頷く。


「これは、

“もう頑張らなくていい場所に戻った”って

身体に教えるやつだ」


クリムが「きゅ……」と小さく鳴く。



◆二本目

【一日の終わりに頭を切り替えるポーション】


「次」


「考え続けるのが疲れるんです」


「だろうな」


俺は瓶を軽く指で叩く。


「これは“反省”を止める薬じゃない。

“今日はここまで”って線を引くためのやつだ」


ルゥが静かに尻尾を一度振った。



◆三本目

【迎えてくれる感覚を取り戻すポーション】


客が少しだけ目を上げる。


「人が疲れるのはな、

失敗したからでも、弱いからでもない」


俺はゆっくり言う。


「“戻ってきた場所が空っぽに感じる”ときだ」


瓶を、手の届くところへ滑らせる。


「これは、

誰かに何かを求めなくてもいい。

ただ“ここにいていい”って感覚を整える」


客の肩が、ほんの少し下がった。



しばらく、言葉はなかった。

でも、空気が変わったのは分かる。


「……治りますか」


「治る治らないじゃない」


俺は正直に言う。


「今日は“休める”。

それだけで十分だ」


客は静かに三本を抱えた。


「……ポーション、下さい」


「おう」


瓶を渡す。


「人生が疲れた日はな、

答えより、

ちゃんと眠れる夜のほうが先だ」


客は小さく、でも確かに笑って立ち上がった。


扉が閉まる。


俺は一息つく。


クリムが「きゅ……(今日は静か)」

ルゥが「わふ……(それでいい)」と目を閉じる。


……人生は、派手じゃなくていい。

ちゃんと、夜を越えられれば。




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