声が枯れた日には
カラン。
ローブがよれよれの魔術師が、喉を押さえながら入ってきた。
「……声が掠れて……」
「詠唱のし過ぎか?」
「……歌い過ぎて」
「そっち!」
クリムが棚の上で「きゅっ(想定外)」、
ルゥが入口で「わふ(自己管理)」とため息をつく。
魔術師は項垂れた。
「酒場で……毎晩……
高音が気持ちよくて……
気づいたら朝まで……」
「魔法より喉を酷使するタイプだな」
俺は腕を組んで聞く。
「で、何のために歌ってる?」
「……一日が終わるのが寂しくて……
拍手があると、今日が報われた気がして……」
なるほど。
欲しいのは声じゃない。余韻だ。
俺は小瓶を三つ並べる。
⸻
◆一本目
【喉と首まわりを労わるポーション】
「まずこれ。
炎魔法より先に、喉を冷やせ。
無理に声出すと回復が遅れる」
魔術師が深く頷く。
⸻
◆二本目
【一日の熱を静かに下ろすポーション】
「次。
興奮したまま夜を越えると、
翌日まで引きずる」
瓶を指で軽く叩く。
「拍手の代わりに、
“今日はここまで”って合図を入れるやつだ」
⸻
◆三本目
【声を使わない達成感を満たすポーション】
「最後。
歌わなくても“満たされた”って感覚を残す。
日記、ストレッチ、楽器の指慣らし——
声を休ませながら、余韻は取れる」
クリムが「きゅ(休符)」、
ルゥが「わふ(沈黙も音)」と太鼓判。
⸻
魔術師は三本を抱えて、少し笑った。
「……歌わない夜、
作ってもいいんですね」
「喉も心も、休符が要る」
魔術師は深く頭を下げて帰っていった。
扉が閉まる。
俺は帳簿に書き足す。
【声枯れ:原因は感情過多】
肩を回して、ぼそっと。
「……次は来るな。
『拍手がないと眠れません』って」
クリムが「きゅっ(来る)」、
ルゥが「わふ……(確定)」と頷いた。
……やれやれ。
来たら来たで、整えるけどさ。




