推しを生成したい
カラン。
「推しの髪の毛を入れたら、
手乗りサイズの推しが産まれるようなポーションありますか?」
俺は顔を上げて、即答した。
「ホムンクルスは提供してない」
「そこをなんとか!」
「何のために?」
「こう……日々の癒しに……」
「犯罪臭しかしない」
クリムが棚の上で「きゅっ(即却下)」、
ルゥが入口で「わふ(線越え)」と二票目。
はい、議決終了。
青年は肩を落としながらも、ぽつりと言う。
「……毎日、帰るのがつらくて……
誰とも話さないまま夜になって……
“そこにいてくれる感じ”が欲しかっただけなんです……」
俺は一拍置いた。
「……欲しいのは“推し”じゃないな」
青年が顔を上げる。
「“帰ってきた自分が休める状態”だ」
俺はカウンターに小瓶を三つ並べた。
⸻
◆一本目
【帰宅後の緊張をほどくポーション】
「まずこれ。
一日中、気を張りっぱなしだろ。
家に帰っても戦闘終了してないタイプだ」
瓶を軽く指で弾く。
「これ飲むと、
玄関くぐった瞬間に“今日は終わり”って身体が理解する。
鎧を脱ぐ合図みたいなもんだ」
クリムが「きゅ(大事)」、
ルゥが「わふ(まず休め)」と伏せる。
⸻
◆二本目
【一日の終わりに頭を切り替えるポーション】
「次はこれ。
頭がずっと外向きのままだ」
青年が小さく頷く。
「反省も不安も、全部寝る前にやる必要はない。
これは“今日を閉じる”ためのやつだ。
考えるのをやめるんじゃない。
明日に回すだけ」
青年の肩が、すっと下がった。
⸻
◆三本目
【非生命体への愛着を満たすポーション】
「最後がこれだ」
青年が身構える。
「言っとくが、生き物は作らない。
意思も人格も、複製もしない」
「……ですよね……」
「でもな、
“そこにいてくれる存在に癒される”感覚自体は正常だ」
俺は続ける。
「ぬいぐるみ、置物、推しグッズ。
動かないものに向ける安心感を、ちゃんと満たす。
安全で、健全で、後腐れなし」
クリムがぬいぐるみ棚をちょんと叩き、
ルゥが「わふ(これでいい)」と太鼓判。
⸻
青年は三本を見つめて、静かに息を吐いた。
「……推しを作りたかったんじゃなくて、
迎えてくれる何かが欲しかったんですね」
「そういうことだ」
俺は肩をすくめる。
「癒しは作るもんじゃない。
整えるもんだ」
青年は深く頭を下げて帰っていった。
扉が閉まる。
俺は帳簿に一行足す。
【ホムンクルス:不可】
【癒し:可(非生命体)】
肩を回しながら、ぼそっと言う。
「……次は来るな。
『推しと会話できるポーションありますか?』って」
クリムが「きゅっ(来る)」、
ルゥが「わふ……(確定)」とため息をついた。
……やれやれ。
来たら来たで、線は守るけどさ。




