転生したいんですよね
カラン。
「転生したいんですよね」
入ってきたのは、顔色の薄い青年。
装備は新品同然、目だけがやけに疲れている。
俺は瓶を拭く手を止めずに言った。
「どこへ」
「……できれば、
チート持ちで、
優しくて、
努力しなくても報われる世界に……」
「現世から逃げたい理由を三行でどうぞ」
青年は詰まる。
「上司が理不尽で」
「成果が評価されなくて」
「寝ても疲れが取れなくて」
「はい現世案件」
クリムが棚の上で「きゅ(知ってた)」と鳴き、
ルゥは入口で「わふ(帰るな)」という顔。
青年は食い下がる。
「でも……転生したら全部リセットですよね!?
名前も、人間関係も、過去も……!」
「過去は消えない。
ただ“形を変えて持ち越す”だけだ」
青年が固まる。
「……え?」
「逃げ癖は、次の人生でも即再発する」
ルゥが重々しく頷く。
クリムも「きゅ……(再発する)」。
俺は棚から小瓶を三つ並べた。
⸻
◆一本目
【今日をやり過ごすポーション】
「転生願望の九割は“今日は無理”から来てる。
まず今日は越えろ」
⸻
◆二本目
【自分を責めすぎないポーション(弱)】
「“自分が悪い”で全部処理する癖、
次の世界でも続くぞ」
⸻
◆三本目
【睡眠の質を取り戻すポーション】
「寝不足で人生判断するな。
それは泥酔状態だ」
⸻
青年は三本を見つめて、肩を落とした。
「……転生、できませんか」
「できる」
青年の目が輝く。
「ただし――
明日の自分に転生だ」
沈黙。
クリム「きゅっ」
ルゥ「わふ(地味だけど効く)」
青年は苦笑した。
「……それ、
ガチャ渋くないですか」
「SSRは“積み重ね”限定排出だ」
青年はしばらく考えてから、
小さく息を吐いた。
「……じゃあ、
今日はここで止まってもいいですか」
「いい。
生きてれば勝ちだ」
青年は頭を下げて帰っていった。
扉が閉まる。
俺はラベルを書き足す。
【転生願望は、だいたい疲労】
クリムが丸くなり、
ルゥがあくびをする。
「……次は“人生リセマラ”とか来るな」
きゅ。
わふ。
今日も平常運転だ。




