最近、指が痺れるんだ
カラン。
「最近、指が痺れるんだ。なんとかならないか?」
入ってきたのは、見覚えのある中年の冒険者。
剣も杖も持ってない。装備より肩こりが主張している。
「どの指だ」
「全部」
「雑だな」
クリムが棚の上から「きゅ?」と首を傾げ、
ルゥは男の手元をじっと見つめている。
俺は一拍置いて聞いた。
「で。
最近なにしてた?」
「え?
依頼の報告書を……夜通し……」
「ペンは?」
「細いやつ」
「姿勢は?」
「前のめり」
「……はい原因」
男が固まる。
「魔物じゃ……ない?」
「魔物より厄介なやつだ。
血行不良と神経圧迫」
男はがっくり肩を落とした。
「……俺、呪われてるかと思った……」
「呪いならもっと派手だ」
俺は棚から小瓶を三つ並べる。
一本目は、薄い琥珀色。
「これ。
手先の血流をよくするやつだ。
即効性はあるが、永続じゃない」
男はうんうん頷く。
二本目は、淡い青。
「こっちは、
肩と首の緊張を抜く。
痺れの“根っこ”に効く」
「……根っこ……」
「痺れは指に出るが、
原因はだいたい首だ」
クリム「きゅ(そういうもの)」
三本目は、無色透明。
「これは、
“作業中に無意識で力を入れすぎない”やつ」
男が目を見開く。
「そんなのまであるのか……」
「痺れるやつほど、
無駄に力んでる」
ルゥが男の指をぺろっと舐めて、
「わふ(力抜け)」と言わんばかりに尻尾を振る。
男は苦笑した。
「……じゃあ、
剣を振りすぎたわけじゃないんだな」
「むしろ、
動かなすぎだ」
俺は最後に言う。
「いいか。
ポーションは“戻す”手伝いはできる。
だが――」
男の指を軽く叩く。
「一時間に一回、
手を開いて閉じろ。
肩を回せ。
あと、寝ろ」
男は真顔で頷いた。
「……寝ます」
「それが一番効く」
男が帰っていく。
扉が閉まったあと、
俺は小さく息を吐いた。
「……痺れ、
呪いより生活のほうが多いんだよな」
クリム「きゅ」
ルゥ「わふ」
俺は次の瓶にラベルを書く。
【地味だけど効くポーション】
――こういうのが、
一番リピートされる。
カラン。
「すいませーん、
最近、腕が上がらなくて……」
「並べ。
原因から潰す」
今日も、平和だ。




