もふもふは選ぶ側
「はぁ……」
店の扉がカラン、と鳴る前からため息が聞こえた。
入ってきたのは、明らかに“生き物使い”の装備をした男。
「どうした?」
「俺、もふもふが大好きなんですよ」
「俺もだ」
即答すると、男は一瞬だけ救われた顔をした。
「テイマーなのに……
スライム……スネイク……スパイダー……」
「もふもふ皆無だな」
「そうなんです!!
俺の人生、ぬめぬめとカサカサしか寄ってこない!!」
クリム「きゅ……(悲しい)」
ルゥ「わふ(気の毒)」
男はカウンターに手をついて、叫んだ。
「もふもふに好かれるポーションくださいッ!!」
「無茶ぶりだが、気持ちは分かる」
⸻
俺は腕を組み、男をじっと見る。
「確認するぞ。
無理やり懐かせたいわけじゃないな?」
「違います!
自分から寄ってきてほしいんです!!
理想は、
“気づいたら膝に乗ってる”です!!」
「分かる」
ルゥがピクリと反応し、
俺の足元にぴたりと座った。
※説得力。
⸻
「まず言っとく」
俺ははっきり言う。
「もふもふは、
“好かれようとしてるやつ”を嫌う」
男が固まる。
「え……」
「触りたい圧、
抱きたい欲、
吸いたい気配。
全部、向こうに伝わる」
クリム「きゅ(伝わる)」
ルゥ「わふ(逃げる)」
男は崩れ落ちた。
「……じゃあ俺、
一生スライムと生きるしか……」
「待て。
補助ならできる」
男の目が輝く。
⸻
俺は棚から小瓶を三本、並べた。
⸻
一本目。
「これは、
生き物に対する“圧”を下げる」
「圧……」
「“触りたい”が
“いてくれると嬉しい”くらいまで落ちる」
男は真剣に頷く。
「……確かに、
見るだけで興奮してました……」
「落ち着け」
⸻
二本目。
「こっちは、
動物が安心しやすい間合いを取れる」
「距離感……」
「近づくんじゃなくて、
“入ってきてもいい空気”を作る」
ルゥが男の匂いを嗅ぎ、
少しだけ尻尾を振った。
男「おっ……?」
「今の反応を信じろ」
⸻
三本目。
「最後は、
もふもふ側が“この人安全”って判断しやすくなる」
「それって……好かれる……?」
「違う。
“嫌われない”だ」
男はしばらく黙り、
それから深く息を吐いた。
「……それでいいです……
まずは逃げられなければ……」
⸻
瓶を見つめながら、男はぽつりと言った。
「……俺、
もふもふに癒されたいって言いながら、
癒しを要求してたのかもしれません」
「気づいたなら上出来だ」
俺は最後に言う。
「もふもふはな、
余裕のあるやつのところに来る。
まずは自分を落ち着かせろ」
クリムが「きゅ」と鳴き、
ルゥが男の足元に座った。
男は目を見開く。
「……え、
これ……」
「今は“たまたま”だ。
だが、
その状態を続けりゃ、
いずれ本物が来る」
男は涙目で瓶を抱えた。
「……信じます……
俺、もふもふに選ばれる男になります……」
「がんばれ。
吸うのは許可されてからだ」
⸻
扉が閉まる。
俺はルゥの背を撫でながら呟く。
「……もふもふは、
癒しじゃなくて
信頼の結果だからな」
クリム「きゅ(深い)」
ルゥ「わふ(撫でるのは許す)」
さて次は――
「もふもふ過剰供給で仕事にならない」か、
「毛だらけ問題」か。
……需要、ありそうだな。




