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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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38/112

闇に落とす前に寝かせろ

店の扉がカラン、と鳴いた。


入ってきたのは、

目の焦点が合ってない女性。

歩き方もふらふらで、昼なのに夜みたいな顔をしている。


クリムが「きゅ?」と様子をうかがい、

ルゥは入口側に寝転びつつ、片目だけ開けた。


女性はカウンターに両手をつき、低い声で言う。


「……闇に……闇に……

闇に落とすポーションをください……」


俺は即答した。


「呪い系はうちではやってない」


「違うんです……!」


女性は勢いよく顔を上げる。


「毎日……まいにち……

大地が揺れるような音で……

眠れないんです……!」


「魔術師協会で調査依頼だな」

「違うんです……」


女性は、涙目で囁いた。


「……旦那の……いびきが……」


……ああ。

それは確かに、文明災害。


クリム「きゅ……(深刻)」

ルゥ「わふ(逃げ場なし)」



「確認する」

俺は淡々と聞く。


「本人に自覚は?」

「ないです」

「注意したことは?」

「あります……

“止まってたよ”って言われて……

そのあと倍になります……」


「最悪の成長分岐だな」


女性は机に突っ伏した。


「耳栓もダメ、

部屋分けても壁越しに来るし、

先に寝ても起こされるし……

私、最近“無音”を妄想するようになって……」


「闇に落ちかけてるな」


ルゥが鼻を鳴らす。

“殺意より睡眠”の合図だ。



俺は腕を組む。


「整理するぞ。

これは“いびき問題”じゃない」


女性が顔を上げる。


「え……?」


「慢性的な睡眠不足だ。

判断力も感情も削れてる。

今のお前に必要なのは、

闇じゃなくて回復だ」


クリム「きゅ(正解)」



俺は棚から小瓶を三つ並べた。


最初の一本を軽く叩く。


「これは、

自分だけ先に深く眠れるやつだ」


「……旦那じゃなくて?」

「まずお前だ。

眠れてないやつが、

問題解決できるわけねぇ」


女性の肩が、少しだけ落ちる。



二本目。


「こっちは、

音に対する反応を鈍らせる」


「耳が遠くなる……?」

「違う。

“危険じゃない音”を脳が無視するようになる。

雷と同じだ。

慣れると起きねぇ」


女性の目が、少しだけ生き返る。


「……それ、欲しい……」



三本目。


「最後は、

いびきをかく側が、

深い呼吸に入りやすくなる」


女性が身を乗り出す。


「旦那に飲ませていいやつですか!?」


「合法な範囲でな。

これは“眠りを整える”だけだ。

気絶はさせない」


クリム「きゅ(残念)」

ルゥ「わふ(理性)」



女性は三本を見つめ、

しばらく黙ってから、ぽつりと言った。


「……私、

闇に落としたいほど

追い詰められてたんですね……」


「そうだ。

でもな」


俺は瓶を押し出しながら言う。


「睡眠不足は、

人格を一段階下げる。

元に戻すには、

まず寝ろ」


女性は、弱々しく笑った。


「……闇じゃなくて、

眠り、ですね……」


「闇に落ちるのは簡単だ。

眠るほうが、よっぽど技術がいる」


ルゥが「わふ」と肯定し、

クリムが女性の袖をちょんと引いた。


女性は瓶を抱え、深く頭を下げる。


「……今夜、

久しぶりにちゃんと眠れそうです……」


「おう。

世界を救う前に、

まず自分を寝かせろ」



扉が閉まる。


俺は棚に手を伸ばしながら、ぼそっと言った。


「……いびきはな、

魔王より厄介な時がある」


クリム「きゅ(同意)」

ルゥ「わふ(静寂は正義)」


さて次は――

「寝相が悪すぎる問題」か、

「夢で説教される問題」か。

……どっちも、需要はありそうだな。



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