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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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37/111

家に帰りたくない理由がダンジョンになる時

店の扉がカラン、と鳴った。


入ってきたのは、鎧も剣も身につけていない中年の冒険者。

なのに表情だけは、さっきまでドラゴンとにらみ合ってきました、みたいに疲れている。


「妻に毎週毎週ダンジョンばっかり!って言われてるんだよ……」


俺は売上表から目を上げる。


「……まぁ、命を心配されてるってことだろ?」


「それは分かる!分かるんだけどさ!」


冒険者は両手を振った。


「家にいたら、子ども押し付けてくるんだよ!!」


……はい、

ダンジョンより深いやつ来ました。


クリム「きゅ……」

ルゥ「わふ(重)」



「何人だ」

「二人!」

「年齢」

「五歳と三歳!」

「詰んでるな」


冒険者は崩れ落ちる。


「だってさ!

帰ったら即“はいお願いね!”って!

飯作ってる間!洗濯の間!風呂の間!

俺、休む暇なくない!?」


「ちなみにダンジョンだと?」

「罠以外は静か」

「だろうな」


ルゥが鼻を鳴らす。

“現実の敵は家にいる”の顔だ。


俺は腕を組む。


「整理するぞ。

お前の問題は三つある」


冒険者が顔を上げる。



一つ目。

妻が怒ってる理由を、危険の問題だと思っている。


「奥さんはな、

“ダンジョンに行くな”じゃなくて

“一人で抱えたくない”って言ってる可能性が高い」


冒険者が黙る。


「二つ目。

お前、家にいても“戦力”として使われてる」


「……はい」

「三つ目」


俺ははっきり言った。


「お前、自分の時間が完全に死んでる」


クリム「きゅ(致命傷)」



冒険者は頭を抱えた。


「じゃあどうすりゃいいんだよ……

ダンジョン行かなきゃ稼げないし……

家にいれば休めないし……」


「殺るポーションは?」

「いやそこまでは……」


「よし」


俺は棚から小瓶を三本並べた。



最初の一本。


「これは、

帰宅後すぐの疲労落としだ」


「ダンジョン帰り専用?」

「いや、“家庭戦闘前”用だ」


冒険者が吹き出す。


「これ飲んでから家に入れ。

“無言でソファに沈む夫”になる前に

最低限の体力を戻す」



二本目。


「こっちは、

感情の摩耗を抑えるやつ」


「怒らなくなる?」

「違う。

“雑に扱われた気分”を溜め込まなくなる」


冒険者の表情が、少しだけ楽になる。


「……それ、効きそうだ」



三本目。


「これが一番重要だ」


俺は一番小さい瓶を指で弾いた。


「話し合いの時に、

言い訳じゃなく“提案”が出てくるやつだ」


「……提案?」


「“俺も疲れてる”じゃなくて、

“この曜日は俺が見るから、この日は休ませてほしい”

って言えるようになる」


冒険者は、しばらく黙ったあと、小さく笑った。


「……ダンジョンより、難易度高くね?」


「当たり前だ。

家庭はエンドコンテンツだ」


ルゥ「わふ(真理)」

クリム「きゅ(逃げ場なし)」



冒険者は瓶を見つめながら言った。


「……俺さ、

家族は好きなんだよ。

ただ……

自分が消えてく感じがして」


「それが一番危ねぇ」


俺は即答した。


「消えかけたやつほど、

ダンジョンに逃げる」


冒険者はゆっくり息を吐いた。


「……逃げてた、か」


「責めてねぇ。

ただな」


俺は最後に言う。


「帰る場所を守るために外へ出てるなら、

帰った時に自分も守れ」


冒険者は深く頷いた。


「……今夜は、

この三本持って帰る」


「おう。

生還率、上げとけ」



扉が閉まる。


俺は棚に手を伸ばしながら、ぼそっと言った。


「……ダンジョンは敵が見えるが、

家庭は見えねぇからな」


クリム「きゅ……」

ルゥ「わふ(どっちも生き残れ)」


さて次は――

「育児で疲れた妻側」か、

「子ども本人が来る」か。

……どっちにしても、

難易度は高そうだな。



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