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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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33/343

闇堕ちはポーションじゃ止まらない

店の扉がカランッと、

半分ぶつかるみたいな音を立てて開いた。


入ってきたのは、明らかに逃げてきた挙動の女性。

肩で息をして、背後を一度確認してから、

ようやくカウンターにすがりつく。


クリム「きゅ……?」

ルゥは無言で入口側を警戒。

あ、これ“追われてる系”だ。


女性は声を潜めて、真剣に言った。


「……闇堕ちしたヤンデレに効くポーション、ありますかね」


…………。


俺は一拍置いてから聞き返した。


「それ、“本人に飲ませる”前提の話か?」


女性は首を横に振る。


「無理です。

飲ませようとしたら、

“一緒に永遠になろう”って言われました」


「逃げろ」


即答だった。


「ですよね!?」


クリム「きゅ!(即答)」

ルゥ「わふ(正解)」


⸻


俺は腕を組み、女性を一通り観察する。


怪我はなし。

震えはあるが正気。

目は覚めてる。


「で、どこまで行ってる?」

「日記が三冊目です」

「重症だな」

「鍵も合鍵作られてて……」

「アウトだ」


女性は半泣きだ。


「だ、だって最初は優しかったんです!

重いくらい愛されてるって思ってて……

気づいたら“闇堕ち”してて……!」


「闇堕ちはな、

“愛が深すぎる”んじゃない。

不安が暴走してる状態だ」


ルゥが低く「わふ」と鳴く。

“ここから先は慎重にいけ”の合図。


⸻


女性は縋るように言った。


「落ち着かせるポーションとか……

正気に戻るやつとか……

ありますよね……?」


俺は、はっきり言った。


「本人を変えるポーションは出さない」


女性の肩が落ちる。


「……ですよね……」


「でもな」


俺は棚に手を伸ばした。


「**“お前が壊れないためのやつ”**ならある」


女性が、はっと顔を上げる。


⸻


俺は小瓶を二つ、静かに並べた。


一本目。


「これは、

恐怖と罪悪感を切り離すポーションだ」


女性が眉をひそめる。


「罪悪感……?」


「“私が見捨てたら悪化するかも”

“私がいなくなったら壊れるかも”

そういう思考を、一旦止める」


クリム「きゅ(それ大事)」


「闇堕ちヤンデレの一番の武器はな、

“相手の優しさ”だ」


女性の目に、涙がにじむ。


「……私……

置いていくのが怖かった……」


「置いていくんじゃない。

距離を取るんだ」


⸻


二本目。


「こっちは、

自分の輪郭を保つためのポーション」


「輪郭……?」


「相手の感情に飲み込まれないようにする。

“私は私”“あなたはあなた”を思い出させる」


ルゥが女性の足元に座り、

どっしりと体重を預ける。


「わふ(離れていい)」


女性は、ふっと力が抜けたように笑った。


「……ヤンデレに効く、じゃなくて……

“私に効く”んですね」


「そうだ。

闇堕ちは、

外から薬を投げても治らん」


俺は続けた。


「本人が自分で“戻る”って決めるまで、

他人ができるのは距離を保つことだけだ」


女性は深く息を吸い、

小さく頷いた。


⸻


「……逃げても、いいんですよね」


「ああ。

それは裏切りじゃない。

生存戦略だ」


クリム「きゅ(正解)」

ルゥ「わふ(生きろ)」


女性は瓶を握りしめ、

何度も頭を下げた。


「ありがとうございます……

……ちゃんと、自分を守ります」


「それでいい。

守れない優しさは、

優しさじゃないからな」


女性はフードを深くかぶり、

足早に店を出ていった。


⸻


扉が閉まったあと、

俺は深くため息をつく。


「……“闇堕ちした相手をどうにかしたい”って相談、

大体もう片方が限界なんだよな」


クリム「きゅ……」

ルゥ「わふ(助かった)」


次に来る客は、

どうかもう少し平和であってほしい。



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