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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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騒がしい朝の要塞と、帰還者の居場所

白亜の要塞――アトリエ・くぼ地の朝は早い。

夜の静けさが嘘みたいに、一階の店舗には最初から人の気配と声が満ちていた。


「店主おはようー!」

「はよーっす!」

「まだ眠い……無理だ〜」


店主の淹れた強い目覚めの茶を胃へ流し込み、住人たちが次々と外へ飛び出していく。


「行ってくるわー!」

「いってきまーす!」


魔道リフトから下りてきた五階の主婦が、床を掃いていたレッターに気さくに声をかけた。


「あらレッター君、今日も朝市いく?」

「あ、はい……後で、リヒャルトさんたちと」


レッターがはにかみながら頷く。


その横を、口元を布で覆った女性が小走りで駆け抜けた。


「店主……いつもの……うっぷ……吐きそう」

「ほらよ」


店主は頷いて、『雪解けの雫』がたっぷり詰まった冷たい銀の器をカウンターに滑らせる。

女性はそれを両手で抱え込み、冷気に顔を寄せて、涙目のまま何度も頭を下げた。


「契約更新したいです!」

「なあ店主、一階に酒場兼食事処を併設しようぜ。俺が毎日通うから絶対儲かるって!」


「却下だ。酔っ払いのゲロの処理なんてごめんだね。飯が食いたきゃ斜め向かいの食堂に行け」


店主が鼻を鳴らし、ばっさりと切り捨てる。


そんな喧騒の合間を縫うように、商会のスタッフが大きな木箱を抱えて顔を出した。


「店主さーん、おはようございます! 納品分を取りに来ました〜」

「……メテス」

「了解した」


メテスが手際よく、美しく梱包されたポーションの木箱を次々とスタッフへ渡していく。

店主は帳簿にサインをしながら、ぶっきらぼうに尋ねた。


「……で。あの孫商人は、相変わらずか?」

「あはは……空回りばかりするんで、こっちは毎日ひやひやですよ。坊ちゃんは根が素直だから、すぐ人に騙されやすいのが傷で……」


苦笑いするスタッフに、店主は呆れたように息を吐く。


「たく。納品先の商会が潰れたらこっちが困るんだ。たまには顔を出せと伝えろ」


態度は冷たいが、その裏にある不器用な気遣いに、スタッフは嬉しそうに「はい!」と頷いて去っていった。


カラン。


少し重たいベルの音とともに、血と泥の匂いをかすかに漂わせた中年冒険者が入ってきた。


「……生きて帰ったぞ。店主、ポーションをくれ」


店主は薬草を刻む手を止め、男の全身を鋭く観察した。


「……早かったな。手足は欠けてないな」


カウンターの下から、重々しい琥珀色の液体が入った瓶を取り出し、男の前にどんと置く。


「ほら、これも飲め。外傷は見えなくても、臓物のダメージを修復してくれる特効薬だ」

「……助かる」


差し出された薬を、冒険者は疑いもせずにぐいっと飲み干す。


「ぷはっ……! 胃の裏が熱い……! これは……効くな……」


安堵の息を吐くその横から、リヒャルトが完璧な、そしてひどく優雅な笑顔で顔を出した。


「お帰りなさいませ。今の特効薬の追加料金、銀貨三枚は、お預かりしているデポジットから引いておきますね!」

「……ぶっ! 命の恩人みたいな顔をしておいて、きっちり別料金とるのかよ!」

「当アトリエは慈善事業ではありませんので」


リヒャルトがさらりと流し、流麗な手つきで帳簿に『−銀貨三枚』と書き込んだ。


ドタドタドタッ!!


その時、二階の階段から、ルナとネスが転がるように降りてきた。


「やばいやばい! 乗合馬車に乗り遅れるー!!」

「ぼ、僕はちゃんと時間通りに起こしましたよぉ!」


ルナが身支度をしながら悲鳴を上げ、ネスが涙目で荷物を抱えてその背中を追う。


「いってきます!!」


嵐のように叫び、二人は朝の光が差し込む街へ飛び出していった。


その騒がしくも温かい余韻の中で、中年冒険者はほうっと息を吐いた。

それから、少しだけ口角を上げる。


「……帰ってきた実感が湧くな」


「きゅ(おかえりなさい!)」

「わふ(……しっかり休め)」


クリムがカウンターの上で愛想よく鳴き、ルゥが冒険者の足元に寄って一度だけ尻尾を振る。


中年冒険者は、追加料金を取られた帳簿を横目で見て、苦く笑った。


「高ぇな」


「当たり前だ。生きて帰ってきた奴には、それなりの値段がつく」


店主が鼻を鳴らす。


「……だから、また戻ってこい」


そのぶっきらぼうな言葉に、中年冒険者は一瞬だけ目を丸くした。

それから、今度はちゃんと笑った。


カランカランッ!!


勢いよく扉が開かれ、今度はひどく切羽詰まった、うわずった声がアトリエに響き渡る。


「店主!! 声が綺麗に出るポーションが欲しいっ!!」



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