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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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痛み止めの場所

カラン。


昼過ぎ。

日向の埃が、ゆっくり落ちる時間だ。


クリムは棚の上で丸くなり、

ルゥは入口で伏せたまま、片耳だけこちらに向けている。


俺は在庫の瓶を数えていた。


その時だ。


入ってきたのは、少年。

背はまだ低い。

服は洗われているが、大きすぎる。


カウンターの前に立つと、

視線を上げずに言った。


「……痛み止めが、欲しい」


俺は顔を上げる。


「あるにはあるが、

傷なら薬師のポーション屋が専門だ」


少年は、首を横に振った。


一拍。


「……妹の……」


声が、掠れる。


俺は、ペンを置いた。


「……身体じゃない?」


少年は、

小さく、でもはっきりと頷いた。


クリム「きゅ……」

ルゥは、音もなく姿勢を変えた。


――静かな案件だ。


俺は、声のトーンを落とす。


「いくつだ」


「……八つ」


「妹は」


「……五つ」


間。


「いつからだ」


少年は、答えない。

代わりに、

ぎゅっと拳を握る。


――答えられないやつだな。


俺は、棚から三つ、

触れたら割れそうな瓶を並べた。


コトン。

コトン。

コトン。



一本目


「【夜を越えるためのやつ】」


「泣き疲れて眠る前、

“大丈夫だった”って感覚だけ残す」


少年は、瓶を見つめる。


「……飲ませるだけで……?」


「飲ませる前に、

“今日はよく頑張った”って言え」


少年の喉が鳴る。



二本目


「【痛みを言葉にするやつ】」


「痛い、怖い、やだ。

それを自分で言っていい状態にする」


「……言って……いいんですか……」


「言っていい。

言えない痛みは、長引く」


クリムが、

少年の指にそっと触れる。


クリム「きゅ(いい)」

ルゥは、静かに尻尾を振った。



三本目


俺は、

少しだけ間を置いた。


「【守る側の呼吸を整えるやつ】」


少年が顔を上げる。


「……俺の……?」


「そうだ。

お前が倒れたら、妹は守れない」


少年は、

唇を噛んで、うなずいた。



会計。


少年は、

三本とも、両手で抱えた。


「……ありがとう……」


「待て」


俺は、カウンターから身を乗り出す。


「これだけじゃ足りない」


少年の肩が跳ねる。


「いいか。

妹はまだ、助けを呼べる年じゃない」


一拍。


「……騎士団に行け」


少年は、俯いた。


「……怖いです……」


「だろうな」


俺は、

声を少しだけ柔らかくする。


「だから、

一緒に行くんだ」


「……え……」


「お前一人で背負う話じゃない。

背負っていいのは、

“連れて行く勇気”までだ」


沈黙。


少年は、

何度か瞬きをしてから、

小さく頷いた。


「……行きます……」


「よし」



扉が閉まる。


俺は、

棚に戻した一本を見て、息を吐く。


「……優しい兄ほど、

先に折れるからな」


クリム「きゅ……」

ルゥ「わふ……」


「次はどうせ、

“大丈夫って言われました”

とか言って戻ってくる」


クリム「きゅ(嘘)」

ルゥ「わふ(大丈夫じゃない)」


俺は、

看板を見上げる。


「……その時は、

もう一段、繋ぐだけだ」


カラン。


この店は、

痛みを消す場所じゃない。


助けを呼ぶ前まで、立っていられる場所だ。


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