特定の日だけ消えたい騎士
カラン。
夕方。
この時間に来る騎士は、だいたい厄介だ。
入ってきたのは、
鎧を脱いだばかりの騎士。
姿勢は完璧、表情は死んでいる。
クリムが棚の上で「きゅ?」
ルゥは入口の横で、察したように伏せた。
騎士はカウンターの前に立ち、低い声で言った。
「……特定の日だけ、
気配を薄くできるポーションはあるか」
俺は即答した。
「……ある。
魔物避けとしてな」
騎士の目が、ほんの一瞬だけ輝く。
「それを——」
「魔物用だ」
間。
騎士は一度、咳払いをしてから言い直した。
「……俺用は?」
「用途を言え」
沈黙。
鎧より重い沈黙。
「……熱心な令嬢を避けたい」
クリム「きゅ(人間災害)」
ルゥ「わふ(逃げ案件)」
俺は眉を押さえた。
「……聞くが」
顔を上げる。
「その令嬢、魔物か?」
「違う」
「じゃあ無理だ」
「だが!」
騎士は珍しく、声を荒げた。
「毎年だ!
その日になると必ず現れる!
花束!
手紙!
視線!
気配!
逃げ場がない!」
「それは祝われてるだけだ」
「命の危機を感じる」
クリムが「きゅ……」と騎士を見る。
ルゥは完全に同情の目だ。
俺は腕を組んだ。
「特定の日ってのは?」
騎士は、観念したように言った。
「……俺の誕生日だ」
ああ。
「……理由は?」
騎士は、目を逸らした。
「……断っても……
“来年こそは”と言われる……」
――なるほど。
俺は棚から、
かなり無難な瓶を二つ出した。
コトン。
コトン。
⸻
一本目
「【視線を受け流すポーション】」
「見られても、
“気にしなくていい”状態になる」
「……それ、俺が鈍くなるだけでは?」
「正解」
⸻
二本目
「【人混みで角が立たない距離感を作るやつ】」
「話しかけられても、
自然に離脱できる」
騎士は瓶を見つめ、低く唸る。
「……消えないんだな」
「消えたら問題だ」
間。
俺は、
棚の奥に手を伸ばしかけて、やめた。
「……気配を薄くするやつも、
一応あるにはある」
騎士の目が上がる。
「だがな」
一拍。
「それを飲んだら、
好意も一緒に薄くなる」
騎士は、固まった。
「……それは……」
「祝われなくなる。
完全にな」
沈黙。
クリム「きゅ(重い)」
ルゥ「わふ(選択だな)」
騎士は、
しばらく黙ったあと、
最初の二本だけを取った。
「……逃げる練習でいい」
「賢い」
会計。
⸻
扉が閉まる。
俺は、
出さなかった瓶を見て呟く。
「……好意を避けるってのはな」
クリム「きゅ?」
ルゥ「わふ?」
「便利だけど、
あとで一番後悔するやつだ」
クリム「きゅ……」
ルゥ「わふ……」
さて次はどうせ、
「気配を消したら
誰にも気づかれなくなりました」
とか言って来るんだろうな。
……やれやれ。




