プレゼントの準備
カラン。
昼前。
まだ眠気が店に残ってる時間帯だ。
クリムは棚の影で丸くなり、
ルゥは入口で伸びをしている。
俺は在庫の数を数えながら思った。
――今日は平和だな。
その油断がいけなかった。
カウンターに立った客は、
やけに目が輝いていた。
「……惚れ薬はダメでも」
嫌な予感。
「感覚を過敏にしてくれるポーションなら!?」
俺は即ペンを置いた。
「感覚過敏って具体的に?」
客は一瞬もじもじしてから、
ぐっと身を乗り出す。
「そ、その……
やりたくなる的な?」
クリム「きゅ!?(直球)」
ルゥ「わふ(アウト寄り)」
俺は深くため息をついた。
「誰用だ」
間。
「……彼の……」
さらに間。
「チョコに仕込む用で……」
俺はゆっくり棚から手を離した。
「……聞き捨てならんな」
「ち、違うんです!!
無理やりじゃなくて!!
ただ……その……
雰囲気が良くなる的な……!」
「それを一般的に
“仕込む”とは言わん」
クリムが肩にしがみつく。
クリム「きゅ(危険案件)」
ルゥは入口側に一歩ずれる。
――事案の匂い。
俺は腕を組んだ。
「いいか。
食べ物に混ぜる系は全部アウト」
「ええええ!?」
「惚れ薬もダメ。
感覚操作もダメ。
同意を飛び越えるやつは
この店では扱わん」
客はしょんぼりした。
「……じゃあ……
何も……無い……?」
「ある」
即答。
俺は棚から、
全然別方向の瓶を三つ並べた。
コトン。
コトン。
コトン。
⸻
一本目
「【自分の感覚を整えるポーション】」
「飲むのはお前だ」
「え、私!?」
「緊張で空回りするタイプだろ。
声が上ずってる」
客は無言でうなずく。
「これで、
視線、声、距離感が自然になる」
⸻
二本目
「【相手の言葉をちゃんと聞けるポーション】」
「“こうなってほしい”より
“どう感じてるか”が分かるようになる」
「……それ……
ずるくないですか?」
「ずるくない。
会話だ」
クリム「きゅ(大事)」
ルゥ「わふ(正論)」
⸻
三本目
俺は一拍置いてから言った。
「【空気を壊さず渡せる勇気のポーション】」
客が目を瞬かせる。
「……それ……」
「チョコを渡す時に
変な言い訳をしなくて済む」
「……っ」
「“今日は一緒にいたい”
それを言えるかどうかだ」
客は三本を見つめ、
しばらく黙ってから言った。
「……仕込むより……
こっちの方が……
こわい……」
「だろ」
俺は三本目をそのまま残した。
「でもな」
少しだけ声を軽くする。
「その怖さを越えられるなら、
ポーションなんて
最初から要らねぇんだ」
クリム「きゅ(勇気)」
ルゥ「わふ(買うか迷う顔)」
客は、
一本目と二本目を手に取った。
「……まずは……
自分から……」
「それでいい」
会計。
⸻
扉が閉まる。
俺は棚に戻した瓶を見て呟く。
「……チョコに仕込む勇気があるなら、
言葉に仕込めって話だ」
クリム「きゅ(名言)」
ルゥ「わふ(甘くない)」
さて次はどうせ、
「プレゼント渡したら
距離が縮みすぎたんですが
戻すポーションありますか」
とか来るんだろうな。
……やれやれ。




