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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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114/125

引き篭もりがいる

カラン。


昼過ぎ。

外が一番うるさい時間に、

店の中だけが静かになるやつ。


入ってきたのは、

やけに姿勢のいい客だった。

服は整っている。

でも、靴だけが新しい。


クリムが棚の上で「きゅ?」

ルゥは入口を背に、伏せたまま鼻を鳴らす。


客はカウンターの前に立つと、

咳払いをして言った。


「……家に、

引き篭もりニートがいるんです」


「ほう」


「もう何年も……

外に出なくて……

働く気もなくて……」


俺はラベルを書きながら、うなずく。


「あるあるだな」


「どうにか、

したくて……」


声が、少しだけ速い。


「外に出る気になるポーションとか、

ありますか」


クリム「きゅ(定番)」

ルゥ「わふ(家庭問題)」


俺はペンを置く。


「結論から言うと、

引っ張り出す薬は無い」


「ですよね……」


落ち込み方が、

やけに自分事だ。


「聞くけどな」


顔は上げない。


「いつからだ」


客は、少し考えてから答えた。


「……三年くらい……」


間。


「部屋から、

ほとんど……

出てこなくなって……」


「食事は」


「……置いておくと……

無くなってます」


クリムが「きゅ」と短く鳴く。

ルゥの尻尾が、床を一度だけ打つ。


「……声は、かけてるか」


客は、

一瞬だけ言葉に詰まる。


「……必要な時だけ……」


「ふむ」


俺は、棚から三つ。

生活距離の瓶を並べる。


コトン。

コトン。

コトン。



一本目。


「【昼夜を戻すやつ】」


「朝と夜の境目を、

体に思い出させる」


客は、思わず瞬きをする。


「……それ……

本人に……?」


「本人用だ」


間。



二本目。


「【外に出なくても

罪悪感が減るやつ】」


「“動けない自分”を

殴らなくて済む」


客は、瓶を見つめたまま、

小さく息を吐く。


「……殴ってました……」


「だろうな」



三本目。


俺は、少しだけ声を落とす。


「【外に出る、

じゃなく

玄関に立つやつ】」


客が、首を傾げる。


「……玄関……?」


「靴を履かなくていい。

ドアを開けなくていい」


間。


「立つだけ」


沈黙。


クリム「きゅ(それだけ)」

ルゥ「わふ(十分)」


客は、

しばらく三本を見比べてから、

ゆっくり言った。


「……これ……

家族に……

飲ませる……?」


俺は、即答しなかった。


「……なぁ」


顔を上げる。


「誰が、

一番困ってる」


客の喉が鳴る。


「……俺……」


一拍。


「……いえ……

……本人が……」


言い直しが、遅い。


俺は、

三本目を一段奥に戻した。



会計。


客は、

一本目と二本目だけを手に取った。


「……まずは……

様子、見ます……」


「それでいい」


カラン。



扉が閉まる。


俺は、

戻した三本目の棚を見て言う。


「……引き篭もりってのはな」


クリム「きゅ?」

ルゥ「わふ?」


「“どうにかしたい”って

言ってる側が、

一番外に出られてない」


クリム「きゅ(刺さる)」

ルゥ「わふ(あるある)」


俺は肩をすくめる。


「次はどうせ、

『家族が動かない理由』だ」


クリム「きゅ……(自分)」

ルゥ「わふ……(だな)」


カラン。


――玄関は、

いつも内側にある。

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