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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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111/118

向かいの窓の幼馴染と仲直りがしたい

カラン。


夕方。

洗濯物の匂いが、まだ通りに残っている時間。


入ってきたのは、

身なりの整った若い女性だった。

声も、歩き方も、丁寧。


ただ――

視線だけが、落ち着かない。


クリムが棚の上で「きゅ?」

ルゥは入口を背に、伏せたまま耳だけ動かす。


女性はカウンターの前に立ち、

少し迷ってから言った。


「……幼馴染が、

最近、無視するんです」


「ほう」


「私たち、

部屋の窓が向かい合ってて……

昔から、朝とか夜とか、

手を振って挨拶してたんです」


指で、

空中に四角を描く。


「でも最近……

カーテンが、

ずっと閉まったままで……」


声が、少しだけ速くなる。


「何か怒らせたのかなって……

心当たり、なくて……」


俺は、頷いた。


「それで」


「仲直りができるポーション、

ありますか」


クリム「きゅ(定番)」

ルゥ「わふ(人間関係)」


俺は、ペンを置く。


「聞くけどな」


女性が、まっすぐ見る。


「いつからだ」


「……一週間くらい前から」


「急だな」


「はい……

前の日までは、

ちゃんと……」


言葉が止まる。


「……ちゃんと、

見えてたのに」


俺は、その言い方を

訂正しない。


「他に、接点は?」


女性は、少し考える。


「……特に……

話すほどじゃないです」


「手紙とか」


「……ないです」


「飲み物を渡す、とか」


女性は、そこで一瞬、黙った。


「……それが……」


声が、少し小さくなる。


「今は……

会えないので……」


クリムが「きゅ」と短く鳴く。

ルゥの尻尾が、床を一度だけ打つ。


俺は、棚から三つ。

距離がある時用の瓶を並べる。


コトン。

コトン。

コトン。



一本目。


「【気まずさを和らげるやつ】」


「感情の角を落とす。

相手が“攻撃されてる”って

感じにくくする」


女性は、ほっと息を吐く。


「……それ、いいですね」



二本目。


「【誤解を増幅させないやつ】」


「沈黙を、

勝手な意味に変換しにくくする」


女性は、瓶をじっと見つめる。


「……考えすぎ、

良くないですもんね」


「だいたいな」



三本目。


俺は、少しだけ声を落とした。


「【距離を詰める前に、

立ち止まるやつ】」


女性が、首を傾げる。


「……立ち止まる?」


「向こうが下がった時、

追わない」


間。


「向かいの窓は、

近く見えて、

一番遠い」


女性は、

小さく笑った。


「……詩みたい」


クリム「きゅ(気づいてない)」

ルゥ「わふ(な)」



会計。


女性は、瓶を受け取りながら、

ふと、聞いた。


「……これ……

どうやって、使えば……」


「寝る前だ」


「……直接……?」


「直接じゃない」


女性は、少し困った顔をする。


「……飲ませる、

とか……?」


俺は、即答しなかった。


「……それはな」


間。


「相手と、

ちゃんと接点がある時だけだ」


女性は、

黙った。


指先で、瓶のラベルをなぞる。


「……今は……

ないです……」


「だろ」



カラン。


女性は、少し首をかしげたまま、

店を出ていった。



俺は、三本目の瓶を

棚の奥に戻す。


「……向かいの窓、か」


クリム「きゅ(近い)」

ルゥ「わふ(遠い)」


俺は、肩をすくめる。


「次はどうせ、

『声をかけられない相手に

どう効かせるか』だ」


クリム「きゅ……(線)」

ルゥ「わふ……(越え)」


今日もこの店は、

片側の話で満ちている。


――向こう側は、

いつも、見えないままだ。


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