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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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閃くポーションが欲しい

カラン。


入ってきた瞬間、分かった。


あ、これは戦場帰りだ。


エプロン姿の女性は、

両手で買い物袋を抱えたまま、カウンターに突っ伏した。


「……もう無理です」


「早いな」


「昨日も一昨日も、

“いつもの”って言われました……!」


クリム「きゅ(いつもの)」

ルゥ「わふ(禁句)」


女性は顔を上げ、半泣きで叫ぶ。


「オカズのレパートリーが

少ないって言われるんです!!

もう何作ればいいか分かりません!!」


俺は即答した。


「あるあるだ」


「あります!?」


「ある。山ほどある」


「じゃあ、閃くポーションください!!」


……ああ。

そう来たか。


俺はラベルを書いたまま、うなずく。


「結論から言うと、

閃きは作れる」


女性の目が、きらっとする。


「ほんとですか!」


「聞くけどな」


ペンを置く。

顔は上げない。


「いつから」


女性は、少し考えてから、

額を押さえた。


「……最近……

……かもしれません」


間。


「朝、キッチンに立つと……

頭が、重くて……」


クリムが「きゅ」と短く鳴く。

ルゥの尻尾が、一度だけ床を打つ。


「……火、

つけっぱなしにしちゃったり……」


俺は、棚に伸ばしかけた手を止めた。


「……今日は、

何を作った」


女性は、困った顔で笑う。


「……えっと……

……いつもの、です」


“いつもの”。


俺は、生活側の棚から三つ。

調理距離の瓶を並べる。


コトン。

コトン。

コトン。



一本目。


「【献立を分解するやつ】」


瓶の栓を指で弾く。


「主菜、副菜、汁物。

一気に考えない。

一品ずつ浮かべる」


女性は、思わず指を折る。


「……一品……」


クリム「きゅ(少なくていい)」

ルゥ「わふ(減らせ)」



二本目。


「【台所で立ち止まる間を作るやつ】」


「包丁を持つ前に一拍。

火をつける前に、もう一拍」


女性は瓶を両手で包む。


「……止まって、いいんですね」


「いい。

止まれない日の料理は、

料理じゃなくなる」


肩が、ほんの少し下がる。



三本目。


声を落とす。


「【閃く、じゃなく

戻るポーション】」


女性の目が揺れる。


「……戻る……?」


「レシピに。

手順に。

安全な順番に」


瓶を軽く叩く。


「新しいものは、

余裕が戻ってからだ」


女性は、しばらく黙っていた。

それから、小さく頷く。


「……じゃあ……

今日は……」


「決めなくていい」


クリム「きゅ(冷凍)」

ルゥ「わふ(買え)」


女性は、三本を胸に抱え、

長く息を吐いた。


「……私、

最近……

ちゃんと“作る”ことばかりで……」


言葉が、そこで切れる。



その時。


カラン。


扉が開いて、

息を切らした男性が入ってきた。


「すみません、

妻が……」


女性が、振り向く。


「……あ」


男性は、彼女の肩にそっと手を置いた。


「今日の薬、

飲み忘れただろう?」


女性は、一瞬きょとんとしてから、

ゆっくり瞬きをする。


「……あ……」


俺は、会計皿を出した。


男性は瓶を見て、

小さく頭を下げる。


「ありがとうございます。

今日は……」


「帰ろう」


男性は微笑って、

女性のエプロンの紐を、

一度だけ結び直した。


女性は、

並んだ瓶とカウンターを見てから、

小さく息を吐く。


「……今日は……

オカズ、

考えなくて……いいですね」


「いい」


カラン。


二人が出ていく。



俺は、三本目の瓶を

一段奥に戻した。


「……閃きはな」


独り言。


「余裕がない時に来ると、

事故る」


クリム「きゅ(わかる)」

ルゥ「わふ(焦げる)」


俺は棚を閉める。


「次はどうせ、

『味がしない』か

『食卓が怖い』だろ」


クリム「きゅ……(重い)」

ルゥ「わふ……(重いな)」


カラン。


今日もこの店は、

生活の顔をした相談で忙しい。


――さて、次は何を“戻す”やら。


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