表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/115

宿題をやらない娘

夕方。

日が傾き始めて、店の中に長い影ができる時間帯だ。


棚の奥で瓶を整理していると、扉が少し強めに開いた。

怒っている、というより――疲れている音。


入ってきたのは親御さん。

肩が張っていて、眉間に力が入っている。


椅子に腰を下ろすなり、深いため息。


「……宿題をやらない娘を、

どうにかやる気を出させたいんです」


俺は、すぐに瓶を出さない。

まず、聞く。


「“やらない”ってのは?」


親御さんは苦笑した。


「机には座るんです。

鉛筆も持つんです。

でも、ぼーっとしたり、

消しゴムで遊んだり、

気付いたら全然進んでなくて……」


ああ。

これは“反抗”じゃない。


「怒りました?」


そう聞くと、少し目を伏せる。


「……はい。

何回も。

『やる気出しなさい』って」


俺は頷いた。


「出ないもんは、出ない」


親御さんが顔を上げる。


「……え?」


「やる気ってのはな、

“出そうとして出るもの”じゃない」


棚から、小瓶を三つ並べる。


「宿題をやらない子どもに

直接効くポーションは、作らない」


親御さんの表情が、少し不安になる。


「じゃあ……」


「代わりに、

宿題が“できない理由”に効くやつを出す」


◆一本目

【親の焦りを抜くポーション】


「まず、これ」


瓶をそっと前に出す。


「子どもはな、

“やらなきゃ”より

“怒られるかも”の方に

先に反応する」


親御さんは、静かに頷いた。


「焦ってる空気は、

やる気を一番削る」


◆二本目

【課題分解サポートポーション(親子用)】


「これは、

“宿題=一個の塊”に見えなくする」


説明する。


「一問。

一行。

一ページ。

“どこまでやれば終わりか”が

見えるようになる補助だ」


親御さんが息をのむ。


「……確かに、

全部まとめて『早くやりなさい』って……」


「子どもにとっては、

ダンジョン最深部を

いきなり見せられてる感覚だ」


◆三本目

【達成感を拾いやすくするポーション】


「これが、娘さん用」


そう言って、少し声を柔らかくする。


「やる気が出ない子の多くは、

“やっても意味がない”って

無意識に思ってる」


瓶を軽く叩く。


「一個終わった、

それだけを“ちゃんと感じられる”ようにする」


親御さんは、しばらく黙っていた。


「……娘、

『どうせ全部やらなきゃいけないんでしょ』

って、よく言うんです」


「それだ」


俺は即答する。


「終わりが見えない仕事は、

大人でもやる気出ねぇ」


少し間を置いてから、続ける。


「大事なこと言うぞ」


親御さんを見る。


「宿題をやらせる目的は、

“今すぐ終わらせること”じゃない」


親御さんの眉が、わずかに緩む。


「……じゃあ……?」


「自分で取り組める感覚を失わせないことだ」


はっきり言う。


「怒られてやる宿題は、

“勉強”じゃなくて

“回避行動”になる」


親御さんは、長く息を吐いた。


「……私、

娘が怠けてると思ってました」


「違う」


首を振る。


「多分、

“重すぎて手が止まってる”だけだ」


クリムがカウンターから降りてきて、

親御さんの足元で丸くなる。


ルゥはその横で、どっしり座った。


「今夜はな」


俺は最後に言う。


「全部やらせなくていい」


親御さんが驚く。


「え……?」


「一問でいい。

一行でいい。

終わったら

“できたね”って言って終わりだ」


少しだけ、笑う。


「宿題は毎日あるが、

“自信が折れる瞬間”は

一回で十分だからな」


親御さんの目が、少し潤んだ。


「……来てよかったです」


「おう」


瓶を包みながら言う。


「やる気は、

“出させるもの”じゃない。

“戻ってくるのを待つもの”だ」


扉が閉まる。


夕方の光が、また店に戻る。


俺は棚を見上げて、独り言。


「……親業も、

根気と支援の連続だな」


クリム「きゅ(ボス戦より難しい)」

ルゥ「わふ(でも、価値は高い)」


この店は、

“子どもを変える場所”じゃない。


親が一人で抱え込まないための場所だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ