限界突破できるポーションください!
昼の光がいちばん白くなる時間帯。
店の中は静かで、薬草の匂いが少しだけ強い。
俺は棚の瓶を並べ替えながら、在庫を確認していた。
クリムはカウンターの端で前足を揃えて座り、
ルゥは入口の影で腹ばいになって、通りを半分寝ながら見張っている。
――バンッ!
勢いよく扉が開いた。
「店主!!」
振り向くと、魔力が常に漏れてるタイプの冒険者が立っていた。
目は血走り、肩で息をしている。
服の縫い目がところどころ焦げているのは……嫌な予感しかしない。
「魔力が……足りないんです!!」
俺は一瞬、目を閉じた。
「……限界突破系の話か?」
「そうです!!
もっと出したい!
今の倍! 三倍!
限界を! 超えたい!!」
クリムが「きゅ……(また無茶な)」と肩をすくめ、
ルゥは「わふ……(死ぬやつ)」という顔をした。
俺は、ため息をひとつ。
「結論から言う」
顔を上げる。
「限界突破するポーションは作らない」
冒険者の顔が、目に見えて歪む。
「な……なんでですか!?
ポーション屋でしょう!?
ブーストとか!
覚醒とか!
そういうの得意分野じゃ!!」
「それな」
俺は腕を組む。
「“一時的に出力を上げる”なら、できる。
でも“限界を超える”のは違う」
冒険者は食い下がる。
「でも!!
限界を超えないと勝てない敵がいるんです!!
俺がもっと強くなれば……!!」
その言葉に、俺は少し声を落とした。
「……誰のために?」
冒険者が言葉に詰まる。
「仲間のためです!!
俺が前に出ないと……!」
「なるほど」
頷く。
「じゃあ聞くが」
一歩近づく。
「お前が限界突破して壊れたら、
その仲間は助かるのか?」
冒険者の拳が、ぎゅっと握られた。
「……それは……」
「答えはNOだ」
はっきり言う。
「お前が倒れた瞬間、
仲間は“前線と精神”を同時に失う」
店内が静まる。
俺は棚から、小瓶を三つ取り出した。
「だから、
“限界を超える薬”じゃなく
“限界を誤魔化さずに使い切る薬”を出す」
冒険者が目を瞬かせる。
「……どういう……」
◆一本目
【魔力循環最適化ポーション】
「まずこれ」
瓶を置く。
「魔力量を増やすんじゃない。
“無駄に漏れてる分”を止める」
冒険者が自分の手を見る。
「……漏れてる……?」
「常に全力で走ってる状態だな。
それじゃ、限界が低く見えるだけだ」
クリムが「きゅ(燃費悪い)」と頷く。
◆二本目
【出力制御ポーション】
「次はこれ」
瓶を指で軽く叩く。
「魔力を“全部同時に出す”癖を止める。
必要な瞬間だけ、必要な場所に集中させる」
冒険者が息をのむ。
「……それ……
地味じゃないですか?」
「地味だ」
俺は即答する。
「でもな、
限界突破してる連中は
だいたいこれが出来てる」
◆三本目
【回復余白確保ポーション】
「最後」
少しだけ声を柔らかくする。
「これは、
“魔力を使い切った後に戻る場所”を作るやつだ」
冒険者の眉が下がる。
「戻る……場所……」
「そうだ」
俺は続ける。
「限界を超えようとするやつほど、
“戻る前提”を忘れる」
一瞬、冒険者の目が揺れた。
「……俺、
倒れる前提で戦ってました」
「あるあるだ」
俺は肩をすくめる。
「仲間想いな奴ほど、
自分を使い潰す」
沈黙。
クリムがカウンターから降りてきて、
冒険者のブーツの先をちょんと触る。
ルゥはその横に座り、
どっしり構える。
「いいか」
俺はゆっくり言う。
「限界突破ってのはな、
数字を上げることじゃない」
冒険者が顔を上げる。
「じゃあ……?」
「“戻ってこれる強さ”を持つことだ」
冒険者は、三本の瓶を見つめる。
「……俺、
もっと派手な答えを想像してました」
「分かる」
苦笑する。
「でも、派手な強さは
だいたい一度きりだ」
少し間を置いてから、続ける。
「お前が守りたい仲間はな、
“一回限界を超えた英雄”より
“何度も前に立てるお前”のほうが欲しい」
冒険者の肩が、すっと下がった。
「……これ、全部ください」
「おう」
瓶を包みながら言う。
「限界を超えるな。
限界を“使い切って帰ってこい”」
冒険者は深く頭を下げ、
少し落ち着いた足取りで店を出ていった。
扉が閉まる。
俺は天井を見上げる。
「……限界突破って言葉、
便利だけど危ないよな」
クリム「きゅ(燃え尽き注意)」
ルゥ「わふ(生存第一)」
この店は、
“無理を肯定しない”。
強くなりたいなら、
生きて戻れる形でだ。
さて――
次はどんな“限界”を超えたい客が来るやら。




