私がたたんでおきました
※ 本作は
しおひがり(@shiohigari114)さまのXへの投稿
洗濯物感覚で廃業させてくる女
および関連シリーズに多大な影響を受けております
(特にヒロインの台詞まわしあたりに)
こんな事、本当は言いたくないのだけど
そう前置きしてから、私は目の前の同棲相手に切り出した。
「ねえ、サック。洗濯物を畳むのは、貴方が分担する約束じゃなかったかしら。」
というか、洗濯物全般ね。
でも彼がいつまでもやらないから、今回も仕方なく、私が洗って、干して、取り込んだ衣類は、いつまでも籠に入ったままになっている。
「んー、別に、その時気づいて余裕のある方がやればいいだろう。臨機応変に。」
「私達、共働きよね。」
疲れているのはお互い様なのよ?
というか、一緒に暮らして、しかも同じ店で働いているんだからわかるでしょう。私の方が朝早く出かけて、夜遅くに帰っているって。
「それに、商人として約束を守る事は大切だと思うの。」
「最近のマーチは口うるせぇなあ、逆に商人だからわかるだろう?口約束に拘束力はないって。」
サックの言葉に絶句した。
話は終わりだとさっさと寝室に引っ込んでしまった男の代わりに洗濯物を畳みながら、今日のことを振り返り、思考を整理する。
今日、コイツのミスをフォローするために走り回って、家には今ついたばかりの私にそんなこと言っちゃうわけ?
うん、今日は私、すっごい走ったよー、虫唾
そして、たった今つきましたー、愛想
そうして、夢からさめた私。
さめた頭で考えてみると、よーくわかった。
どうやら私は、多忙で不規則な生活をしているうちに、つい偏っちゃっていたみたいだ……思想が。
思い返せば、親友や信頼のおける取引相手から、『彼と結婚するの?……やめとけば』と言われていたのに、最近の態度も『でも彼、根はいいやつだから』と大目にみてしまっていた。
それは昔、自分の店を持ちたいと言った私を応援してくれたり、付き合い始めた時に優しくしてくれたことに借りがあると思っていたから。
でも、そろそろ返すね……手のひら
「だって仮に根は良い奴だとしても……葉も茎も腐っているのよね、あの男」
だからもちろん、これからなにも実らない。
ならばさっさと損切りするに限る、サックとの結婚事業からは撤退だ。だって私、商人だもん。
◇◇◇
数日後、サックは酒場で調子こいていた。
「昔、マーチのやつが『共働きだし家政婦さんでも雇おうか』って言い出した時、『俺も分担するから』って止めたんだよ。正解だったぜ。」
しかし、家事なんてチキンレースみたいなものというのがこの男の持論である。
先に気になってやった方の負けであり、そのままずっと彼女にやらせておけば良いくらいに考えていた。
「何せ、そんな事すると金がかかるからな。今は財布も別だけど、あの女は相当溜め込んでいるぜ。それに、結婚したら店だって共有財産だしな……というわけで店長、今夜のもツケにしとくてくれ!」
自分はこのまま結婚できると疑わず、散財しながら『もうすぐ俺も、一国の主かー。』なんていい夢を見ながら、彼はアパートに帰ってきた。
「お、洗濯物もきちんと畳んでいるじゃん」
ほーら、やっぱりな、と満足気に頷いたあと、サックはようやく異変に気づく。
部屋から、マーチの私物が全てなくなっていることを。
のみならず、いつも優しく出迎えてくれるマーチ本人までも、いなくなっていることを。
「どういうことだ?……ん、これは?」
綺麗に畳まれた洗濯物の上には、マーチの几帳面で丁寧な字で書かれた手紙があった。
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サックへ
私達終わりにしましょう。
貴方が公私共に私の望む働きをしてくれないので、今日も洗濯物は私がたたんでおきました。でも、これが最後です。あと貴方と一緒に働いていた、今のお店もたたみました。
なので貴方の仕事は、明日からありません。
しかしまあ、契約魔法による労務契約だったわけではないので、法的には何の問題もないでしょう。
あくまで、私のお店を無償でお手伝いする代わりに、貴方名義で借りているこのアパートの家賃や、生活費や、お小遣いを私が払うという形の『口約束』でしたものね。
私は準爵位を買ったので、貴族街にて従業員達と新しいお店を出します。でも、迷惑だから探したり、追ってきたりはしないで下さいね。
(まあ、爵位持ちかその関係者以外は貴族街へと続く門を通る事はできませんが)
私は商人なので、この数年間の失敗を活かして大きな成功を掴むつもりです。貴方もそうなるように祈っています。
さようなら。
マーチより
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「うぇ、おぉ……ぅう…」
声にならない呻き声がもれる
たかが家事一つ
たかが洗濯物の口約束
そう高をくくったばっかりに
彼は、マーチに交際関係から足を『洗われ』て、好条件の働き口だった店を『たたまれる』ハメになった。
そしてこの後は、当然の帰結として周りから『干され』て、借金返済という終わりの見えないループに『取り込まれて』しまう運命がまっている。
寂しくなった部屋で手紙を3回ほど読み返したあと、懐事情も寂しいサックは一人茫然としていたが……後悔しても、もう遅い。




