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ギャル傭兵と凡人オレ  作者: もぴお
第四章:風鳴りの荒野
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二節:驛の市

 陽が傾く頃、砂と石の色が混じった町が見えてきた。

 ケルナ交易驛――荒野の道をつなぐ中継都市だ。

 周囲に壁はない。あるのは、風よけの布と、壊れかけの柵だけ。

 それでも、人の声と匂いが渦を巻く。

 馬車、荷車、商人、旅芸人、傭兵。

 汗と油とスパイスの入り混じった熱気が、風の音を押しのけていた。


「うわー、にぎやか!」ランが目を輝かせた。

「港とは違う人混みね」リノが少し眉をひそめる。

「こっちは“生きるための喧騒”って感じだな」俺は答えた。

 港の賑わいは取引の音だったが、ここは生存のざわめきだ。

 笑っている者も、怒鳴っている者も、どこか焦燥の色を持っている。

 生き延びるために叫び、生き延びるために笑う

 ――それが、この街の呼吸だった。


 通りを抜けると、風除けの布が揺れて、露店の影に短剣や薬瓶が並んでいる。

 干からびた果実と酒の匂いが、鼻を刺すように濃い。

「ほら見て、剣の柄がキラッキラじゃん!」

 ランが目を輝かせて、大剣のデコと見比べている。

「またデコ増やす気?」

「増やすよ? あーしの剣、世界で一番かわいくしたいし!」

「……派手すぎて敵の的になりそう」リノが冷たく言う。

「見た目で勝負ってのもあるの!」

 軽口が続く。その後ろで、俺は足を止めた。


 酒場の壁際で、少年が布を広げていた。

 そこに並んでいたのは、割れた指輪、焦げたペンダント、錆びついた徽章。

 どれもかつて誰かが“大事にしていたはずのもの”だ。

「戦場帰りの拾いもんだよ」と少年が笑う。

「売れるのか、これ」

「売れなきゃ困る。腹、減るし」

 淡々とした声に、胸の奥が痛くなった。

 ランの笑い声が遠くに聞こえる。

 彼女たちは前を歩いている。

 俺だけが、過去の残骸を見下ろしていた。


「ソウマ、何してんの?」

 振り返るとランがパン串を片手に立っていた。

「なんでもない。……腹減ったな」

「でしょ? これ食べて!」串を差し出される。

 肉かと思ったら、正体はスパイス漬けのトカゲ。

「……うん、食える」

「やるじゃん凡人くん。旅慣れてきたね」

「これで慣れたら、二度と人間に戻れねぇな」

 笑いながら、串をかじる。

 スパイスの刺激で涙が出そうになるが、変な安堵もあった。

 この旅に、ようやく“味”がついてきた気がした。


 宿を取る頃には、空は群青に沈み、焚き火の光が石畳を照らしていた。

 木造の宿屋《トビネズミ亭》。

 外壁はひび割れているが、窓から漏れる灯は暖かい。

 リノが部屋の鍵を受け取りながら言う。

「珍しいわね、まともな宿があるなんて」

「傭兵と商人の街だからね。死体より先に金が転がってる」

「言い方が縁起悪いわ」

「事実だ」

 ランが笑いながら荷を放る。

「まぁまぁ、今日は平和に寝よ。明日、商人の隊長に挨拶ね」

「了解」

 俺は寝床に腰を下ろし、槍を壁に立てかけた。

 窓の外では、砂嵐が遠くを這う音がした。

 乾いた夜気が、胸の奥を通り抜けていく。

 この場所の風は荒いが、どこか自由だった。

 誰も過去を聞かず、名を問わない。

 “ただ今日を生きる”だけで、ここでは十分らしい。


 リノが隣のベッドで静かに息を整えている。

 寝たふりかもしれないが、その横顔は少し穏やかに見えた。

 ――ここなら、少しだけ息ができる。

 そう思った瞬間、久しぶりに眠気がやってきた。


 外では、風鳴りの塔が夜の歌を奏でていた。

 誰の祈りも届かない、荒野の音色。

 それでも俺たちは、明日の風向きを信じて目を閉じた。

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