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ギャル傭兵と凡人オレ  作者: もぴお
第四章:風鳴りの荒野
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一節:風標

 レヴァンを発って三日。

 潮風の名残はとうに消え、

かわりに砂と草いきれの乾いた匂いが肺の奥にこびりついていた。

 湿った港の空気を恋しく思うことなんて今までなかったのに、

 いざ離れてみると、あの塩気さえ“人の気配”みたいに思えてくる。

 荒野の風は無機質だ。吹いては砂を巻き上げ、何も残さない。

 まるで、この道を歩く者の足跡ごと風化させようとしているみたいだった。


「はい、これ。昼の分」

 ランが干し肉をちぎって投げてくる。

 空中で受け取ったそれは砂でざらついていて、噛むたびに歯が軋む。

「味、砂っぽいな」

「砂が主食みたいな土地だからね、この辺」リノが淡々と返す。

「やだその事実」ランが顔をしかめる。

 そんなやり取りが、風の音にかき消される。

 この二人の声を聞いていると、いつの間にか息が整うのを感じる。

 それだけで、生きている実感が少し戻ってくる。


 地平線の向こうに、倒れかけた鉄塔がいくつも突き出ていた。

 かつては魔力通信塔だったらしい。

 風が通るたび、折れた骨組みがうなり、低く唸るような音を上げる。

 “風鳴り”――この荒野の名前の由来だ。

 音はまるで、かつてここにあった文明の残響。

 立ち止まると、

死んだ機械たちがまだ何かを伝えようとしているようにも思えた。


 足を止めた俺たちの前に、砂に半ば埋もれた石標があった。

 刻まれた文字は風に削られて薄れているが、なんとか読める。

「ケルナ交易驛(こうえきえき)、ここから半日」リノが指でなぞる。

 彼女の指先が白く、細くて、

 岩に刻まれた古いルーンとよく似た線を描いていた。

「で、依頼は?」ランが顎を上げる。

「商人隊の護衛。ケルナ驛から“風断峡(ふうだんきょう)”を越えるまで」

「峡ってさ、だいたいロクな目に合わないんだよねー」

「正しい。だからこそ仕事になる」

 俺は笑いながらも、その通りだと思った。

 世の中の“誰も行きたがらない場所”こそ、傭兵の飯の種だ。

 行きたがる者がいる限り、俺たちの仕事はなくならない。

 ――それがこの稼業の皮肉な安定だ。


 ふと足元に、砂に埋もれた矢筒が転がっていた。

 古く、羽根の一本が違う材で継ぎ直されている。

 器用貧乏な修理跡。俺と似たようなもんだなと思う。

 生き延びるために、できることを繋ぎ合わせて、それでも歪なまま形を保つ。

 そんな矢筒に、妙な親近感が湧いた。

 思わず、指で砂を払っていた。


「マメだね、凡人くん」

「貧乏性なだけさ」

「でも便利じゃん」リノが小さく笑う。

 彼女の笑顔はあっという間に風にかき消されたけれど、

 その一瞬、荒野の色が少しだけ柔らかくなった気がした。


 風が強くなり、鉄塔の骨鳴りが遠くで唸る。

 俺たちは同時に顔を上げた。

 風が、旅の進行方向を指しているように思えた。

 “どこへ行くか”より、“誰と歩くか”。

 凡人の俺でも、その順番だけは間違えたくない。


 三人の影が砂に長く伸びる。

 その先にあるのが何であれ、

 いまはただ――歩く。それが、俺たちの仕事であり、生き方だ。

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