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004.炎の中で

 体がドロドロに溶けるような熱さを全身に感じる。

 炎の中を突っ走るのはさすがに無茶しすぎた。

 煙で視界も悪く、意識が朦朧とする。

 それでも足はあの"異端の魔法剣士"が気になって止まってくれないようだった。


 武器屋が横目に入ったが原型をとどめていない。

 屋根は完全に吹き抜けになり、店主特製の看板もボロボロになって文字など到底読めなかった。

 武器屋のおっちゃんの姿も見えない。

 最悪の事態が頭によぎって吐きそうになった。

 どうか、みんな無事であってくれ。


 道に撒かれた瓦礫や柱を乗り越えて進み続ける。

 こんだけ走っているのに周りに人影の一つも見えない。

 師匠とあの魔法剣士もどこにいったんだ。


「誰かー! いないのか! 無事かー!」


 叫びすぎて声がしゃがれてきた。

 これだけ叫んでも返答がないということは、本当に避難したのか?

 前を向くと相変わらずレッドドラゴンが山の上空で佇んでいるのが見える。

 俺たちの攻撃が届かない所から、ブレスで街を焼き尽くしているのだ。


 この襲撃はどこか不自然なんだ。

 レッドドラゴンは本来、街などに現れないはず。

 それにドラゴンの中でも人間を襲うような凶暴な

種ではない。

 そんなレッドドラゴンが突然現れてこの街を焼き尽くすなんて前代未聞の事件だ。

 何かこの襲撃には裏があるのではないだろうか。


 考えながら全力疾走していると、気づけば冒険者ギルドがあった場所に到着していた。

 正しく言えば通り過ぎてようやく気づいた。

 武器屋なんて比にならないくらい、変わり果てた姿になった建物がそこにあった。

 今日、父さんがここに来ているはずなんだ。


 鉄製のドアノブのようなものを握ってこじ開ける。

 手に地獄のような痛みを感じたが、父さんのことを思えば些細なものだ。


「父さん! いるのか! いたら返事してくれよ!」


 返事がない。

 あるのは焦げた書類の山と、杜撰に床にばら撒かれた大きな剣などの武器だけだ。

 その剣の中に一際目立った赤色の剣があった。

 これは父さんが愛用している剣だ。

 どんな時も肌身離さず持っていて、家族より愛していたと言っても過言ではない。

 避難しているのであれば、ここにあるはずがない。


 ——嫌な予感がした。

 それでも俺は諦めずに叫び続ける。

 どれだけ声が枯れても、俺は諦められなかった。

 瓦礫をどかして父さんを探し続けた。


 赤茶色の瓦礫をひっくり返した時、信じがたいものがその裏にあった。

 ピアスが一つだけ通った完璧に切断された片耳だ。

 そして俺はこのピアスをつけている人物を知っている。


「——父さん?」


 俺はその場で嘔吐した。

 レッドドラゴンが父さんを食いやがった。

 悲しみや憎しみ、怒りなど様々な感情が押しかけてきて俺の脳はパンクしていた。

 でも確かに一つだけ、心の中で強く思った。


「あのクソドラゴン、ぶっ殺してやる」

 

 爪を立てて拳を握りしめる。

 手のひらに痛みを感じるが、父さんが感じた痛みはこれの百倍以上はあるだろうな。

 目から勝手に流れる涙を拭って立ち上がる。

 書類を八つ当たりで蹴り上げ、ドアに近づいた。

 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回転させようとする。


 その瞬間、ドアが逆にこっちに向かってきた。

 何者かが外からドアを開けてきたんだ。

 俺の額にドアが勢いよくぶつかり、尻餅をつくように倒れた。


「ぎやああああ! 助けてええええ! ガキの前だからってカッコつけなきゃよかったよお!」


 見上げると例の異端の魔法剣士が涙目になって叫んでいた。

 急いで扉を閉じて、荒い呼吸を整えようと目を瞑って胸に手を当てている。

 前髪長めのワックスカチカチ赤髪ツーブロ男はこいつしか見たことがない。

 目を瞑っているからか俺に気づいていないようだ。


「そもそもこの街を助ける義理なんてないよな。"異端"って変な褒め方してきた人たちの街だぞ」


「あ、あのー……もしかしt」

「うわああああああああ! って……なんだガキかよ」


 大人のこんなにも情けない姿を初めて見た。

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