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第9話 もう少しそのままでお願いします

「私達のパーティーは今日で解散するんだよ」


 龍の巣の前で、カリンカさんがそんな言葉を口に出した。


「えーっ! 解散するんですか!?」


 俺は思わず大きな声を出してしまった。エミルも声こそ出さないものの、驚きの表情をしている。


(Aランクパーティーが解散って、そんなことある!?)


 考えられる理由としては不仲や報酬の取り分があるだろうけど、この三人を見る限りはとてもそんなことがあるとは思えない。


「そんな、せっかくAランクにまでなったのに、もったいないというか残念というか」


「みなさんとってもお強いので、これからもっとご活躍されるのかと思いました」


「そう思ってくれてありがとう」


「あの、もしよかったら理由を聞いても?」


「ま、まぁ、とりあえず帰らない?」


 俺がそう聞くとカリンカさんは、なんだか慌てた様子でそう言った。

 なんというか、ここまでは凛とした強い女性といった印象だったけど、なんだか親近感がわいてきた。



 そして全員が転移魔法陣によってガリアーノの街に帰って来た。


「あとは全員でギルドに行って完了報告をすれば無事に依頼達成だね。さあ行こうか」


 うーん、なんだかカリンカさん、何かをごまかそうとしてるような……?


「あれぇー? カリンカ、さっきのリクトくんの質問に答えてないよー?」


「え!? いや、ほら、だって解散理由なんて他の人に聞かせるようなことではないだろう?」


「でもそれを聞きたいって言ったのはリクト君だったけど?」


「サラまで何言ってんの!?」


 カリンカさん、慌てすぎて口調が乱れてますよ。


「私たちが解散する理由、それはねぇー、私とサラがそれぞれ結婚するからだよー」


 想定外の理由だった。そりゃあ冒険者だって結婚するよなぁ。


 俺とエミルがそれぞれ「おめでとうございます!」と祝福すると、二人は「ありがとうー!」と返してくれた。


「やっぱり家庭と冒険者の両立は難しいということなんですね。それに冒険者って、けっこう出会いがありそうですよね」


 だって会社や学校と違って自由にできるんだから。どの時間にギルドに行くのかも自由、どの依頼を受けるのかも自由、誰とパーティーを組むのかも自由。かなり自由度が高い仕事だ。


「確かにそうなんだよね。私もミントもまさかこんな早く結婚するとは思ってなかったんだ!」


 聞くところによると、サラさんのお相手は別の街で出会った武器屋で、ミントさんのお相手はさらに別の街で出会った冒険者らしく、パーティーで決めた休日にそれぞれが会いに行ったりしていたそうだ。


 そして結婚が決まったけど、さすがに冒険者との両立は難しく、お相手からもできれば引退してほしいとお願いされていたんだとか。

 冒険者は危険と隣り合わせ。そうお願いしたくなるのも分かる。


(冒険者をしてても結婚できるのかぁ。なんか安心した)


 俺はなんとなくカリンカさんを見た。金髪ポニーテールに薄い蒼の瞳。ヨーロッパ人のような感じで、整った顔立ち。改めて見なくても紛れもない美人。別に何かする気はないけど、さっきの話を聞いたからか、彼氏がいるのかちょっと気になってきた。


「ち、違うから! 確かに私は彼氏すらいないけど、20歳なんてまだまだこれからだから!」


「俺、何も言ってませんよ……」


 ちょっと見てただけなのに……。なるほど、だから俺の質問をごまかそうとしていたのか。別に恥ずかしいことじゃないと思うけど。

 それにしても、よく分からん時にカリンカさんが20歳だと知った俺とエミル。



 それから全員でギルドに行き、受付のカスミさんに完了の報告をした。エミルの手元には無事、ドラゴンの魔石がある。


 まだ昼過ぎなので全員でレストランに行って楽しく食事をとった。男一人に女性四人。しかもそのうち二人はもうすぐ人妻。こんなイケナイ食事会をしてる高二男子って、俺しかいないのでは?


 そこで初めて詳しくカリンカさん達の関係を聞いた。どうやら三人は16歳の時に偶然ギルドで出会ったらしく、わりと早くに意気投合したそうだ。


 戦いの時も連携がスムーズにとれ、気がつけば四年という奇跡のような短さで全員がAランクになった。

 この世界では女性が冒険者になることは普通のこととされている。きっと女性だけのほうがいいことだってあるんだろう。



 食事が終わり、そろそろ夕方が近づいてきた。カリンカさん達ともこれでお別れだと思うと、なんだか寂しい。


「どうもありがとうございました。ここからは俺とエミルだけでエミルの住む村まで行こうと思います」


 これは事前にエミルと話し合ったこと。ガリアーノの街からエミルの住む村まで、遠いけど危険は少ないらしい。それに俺だって多少の護衛はできるはず。


「そのことなんだけど、もしよければ私も一緒に行っていいだろうか?」


「いえっ! そんな、申し訳ないですっ! ここから村までは遠いので……。それにリクトさんがいてくれますから」


 エミルが自然に俺を受け入れてくれている。思った以上に嬉しい。


「これは護衛じゃなくて、友人としてぜひ私がそうしたいと思ったんだ。どうだろう?」


「友人……! 私達と出会ったばかりなのにそう呼んでくれるんですね。あのっ、ぜひお願いします」


 俺としてもカリンカさんは信用に値する人だと思うから賛成だ。


 こうして俺とエミルとカリンカさんの三人で、エミルの住む村まで行くことになった。


 それからカリンカさんが、サラさんとミントさんに向き合った。


「サラ、ミント。パーティーは、今日でっ……! 解散になってしまう、けど……これからもみんなで会おうね!」


「うんっ! もちろん、だよ……! 私もカリンカとサラが大好き!」


「カリンカもっ……! 頑張ってSランクになってね!」


 そして美人お姉さん達が抱き合った。笑い合い、涙を流し、密着して肩を抱く。

 きっと今までに素敵な時間を積み重ねてきたのだろう。それはとても尊い。

 もちろん俺はその場にいなかったけど、この光景がそれを物語っていた。……もっと眺めていたいのでもう少しそのままでお願いします。


 二人が去ったあとは、俺とエミルは昨日と同じ宿に行き、カリンカさんは別の宿へと向かった。



 翌日。朝10時に待ち合わせをした俺達は、合流してからエミルの住む村へ出発した。


 ガリアーノの街から村までは徒歩と馬車で移動する。馬車乗り場までは徒歩になるけど、それがけっこう街と離れているらしい。

 しかも舗装されていない人通りの少ない道もあるそうで、もしモンスターが出たとしても俺だって盾にはなれる。


 街から30分くらい歩くと、草原に出た。見晴らしはいいけど、確かに人の姿は見当たらない。


 すると前から二足歩行のトカゲのようなモンスターが近づいて来ているのが分かった。それは明らかにこっちを見ており、なんだか興奮しているようにも見える。これからバトルになるだろうことは予想できた。


(そろそろエミルに回復魔法をかけてもらいたいなぁ……)

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