第38話 進化
ボスがいるというDランクダンジョンで、俺はサイクロプスによる巨大こん棒の攻撃をまともにくらってしまった。
ダメージ調整は『無傷』に設定していたから傷こそ無かったものの、衝撃によって俺は壁に叩きつけられしまう。
ところがその時、『レベル』が上がった感覚がしたんだ。俺がしたことといえば、攻撃をくらったことだけ。
(まさかダメージ調整ってエミルのヒールみたいに熟練度で進化するのか……?)
「リクトっ!」
「リクトさんっ!」
「もうっ! やっぱり私がいなきゃダメじゃないの!」
それぞれが声を上げながら、俺のもとに駆けつけて来てくれた。
「見た目ほどのダメージはないから大丈夫だ」
「えっ、そうなの? ものすごい衝撃に見えたけど?」
「ミヤと二人で買いに行ったこのライトアーマーのおかげかもしれないな」
「そっ……、そのくらいならいくらでも付き合ってあげるわよ!」
「それは助かる。だったら今度は——」
「リクトさん、今はお話ししてる場合じゃないですよね? ね? ね……?」
なんだかエミルが怖い。「ね?」が三回も続くなんてことある? だけどエミルの言う通りだ。モンスターは会話が終わるまで待ってくれない。
「さすがサイクロプス、並外れたパワーだな」
「リクト、感心してる場合じゃないよ。まだ一体も倒せていないんだからね。私もなるべく早く倒して加勢するから!」
そうだ、サイクロプスは二体いる。カリンカさんは俺の無事を確認すると、もう一体のほうへと走って行った。
「もう大丈夫だからエミルとミヤは下がっててくれないか」
「えっ? でもリクトさん……」
「実はさっきの攻撃でレベルが上がったんだ」
「レベルが上がったってホントなの? モンスターを倒してもないのに?」
「ああ、間違いない。だから大丈夫だ。それに俺だって前衛だからメンバーを守ることくらいはさせてくれ」
少し恥ずかしいセリフだけど、本心だから言って後悔はない。
「リクトがそこまで言うなら信じるけど、もしもまた無茶をするようなら特製スープを毎日でも飲ませるから!」
「なんでスープの話になるか分からんけど、そう言ってもらえると助かる」
「私もリクトさんを信じます。だけどもしケガをしてしまったら、心を込めて治療します。でもでもっ! どうか無茶はしないでください」
「ありがとうエミル」
それから二人は再び安全な距離をとった。少し遠くではカリンカさんが戦っている。Aランクのカリンカさんなら、Dランクモンスターなんて軽々と倒すのだろう。そしてその後は俺に加勢してくれるはずだ。
だけどなるべくなら一人で倒してしまいたい。ずっとカリンカさんに頼りっぱなしというわけにはいかないんだ。
俺は再び水色のサイクロプスと対峙した。身長の何倍もあるためその威圧感は凄まじく、もしもダメージ調整のスキルが無ければ、足が震えてもおかしくない。
弱点はその大きな一つの目。だけどそのためには巨体を崩さなければならない。足に傷をつけることができるのはさっき確認済みだ。
俺はただひたすら同じ箇所を攻撃し続ける。レベルが上がったはずだけど、特段の変化は感じない。やはり攻撃面での能力が上がったわけではなさそうだ。
(となるとやはりダメージ調整に変化が起きた……?)
あぁ……試したい。だけど二回目となるとめちゃくちゃ怒られそう。
そうこうしているうちにサイクロプスのこん棒が振り下ろされたが、俺はそれを避けた。空振りしたこん棒が地面に叩きつけられ轟音を響かせる。
そしてそのまま薙ぎ払うかのように高速で俺を狙う。さっきはそれをまともにくらってしまい、吹き飛んで壁に叩きつけられた。
(これならどうだ?)
俺は腕をクロスさせてガードの構えをとった。ダメージ調整が進化したのかどうか、結局のところは試してみないと分からない。それもなるべく同じ状況で。
頭の中で謎の声がステータスを教えてくれるなんてことはない。だったら今やるしかないんだ。
もっとも、高速で迫る巨大こん棒を腕でガードしたところで防げるとは思ってない。が、無防備で受けるよりはマシだろうと考えた。
腕に大木のようなこん棒が当たり、大きな音が響く。
「リクトさんっ!」
「リクトっ!」
二人の美少女の声がハッキリと聞こえる。そう、ハッキリと。
俺はその場に立ったまま、両腕でしっかりとこん棒を受け止めていた。『無傷』設定なので、もちろん痛みもダメージも無い。
(これはやっぱり……?)
どうやら【ダメージ調整】に吹き飛び耐性がついたらしい。スキルが進化したんだ。
こうなるともうあとは楽勝。俺はこん棒を回避しつつ攻撃を続けた。
できる限り避ける方向でいきたかったけど、俺のスピードはまだそこまでではないので、たまにこん棒がまともに当たってしまう。だが俺はビクともしない。
大木のようなこん棒に勝つ俺。とまどうサイクロプス。圧倒的な強者感。
そして俺はついにサイクロプスを倒し、魔石だけが残った。一人で倒せたんだ。
その直後、カリンカさんが駆けつけて来てくれた。
「リクト! 大丈夫だった!?」
「はい。俺一人で倒せました」
「うん、凄いよ。吹き飛ばされた時はどうなるかと思ったけどね」
「心配かけてすみません。でもあれで意外とダメージは無かったんです」
「あのねぇ。たとえそうだとしても、あんなの見れば心配になるに決まってるじゃない」
「そうですよ、ミヤさんの言う通りです」
「ところでリクト。後ろで見てて思ったんだけど、なんだか急に強くなったんじゃないの?」
「さっきも言ったけどレベルが上がったからだろうな」
「だとしても、あんな急に鉄壁になるものなの?」
なんだかミヤが鋭い。ミヤって言いたいことはハッキリ言うタイプだからなー。
「これも前に言ったけど、俺は防御に自信があるんだ」
「ふーん、そうなの」
「ミヤは俺を信用してないな?」
「そんなことないわよ」
「リクト、ミヤ。その話は帰ってからすることにして、先に進もう」
カリンカさんの一言で先に進むことになった。が、またしても俺の前に立つ人影。
「あの、カリンカさん。近くないですか? 前が見えないんですけど」
「え? そうかな?」
「それにエミルとミヤ。そんなにくっつかれると歩きづらいんだけど」
「そうですか?」
「何言ってんの、これくらい普通じゃないの」
俺はまたしても前と両横を囲まれた。つまりどういうことかというと、
(全然信用されてないな、俺)




