第33話 旅行を趣味にしたいかも
もしかするとエミルは本当に聖女かもしれない。それを確認するため王都へ行くことになった。
ここガリアーノの街から王都までは、いくつもの馬車を乗り継いで行くことになり二日はかかってしまうという。なのでどうしても家を空けることになる。
前日にはここのギルドに行って、カスミさんから無事にDランクに昇格したとの確認がとれた。個人差はあるものの、Dランクまではわりと多くの人がなることができるらしい。
俺達はかなり早いそうで、それはカリンカさんのおかげと言っていい。
そして出発の日の朝がやってきた。
「さあ、準備はいいかな?」
「俺は大丈夫です」
「私もですっ」
「私も準備できてます」
それぞれがカバンを持っているが、それに加えて俺だけが大きめのリュックサックを背負っている。
その中には食料などパーティー全員で使うものが入っており、誰が背負うかという話になったので、さすがにそこは立候補した。アイテムボックスがいかにチートかよく分かる。
まずはここと同じくらい大きな街まで行く必要があり、そこまで行くだけでもいくつかの馬車を乗り継ぐそうだ。
定期便が出ている馬車乗り場まで行くと、朝の早い時間だというのにたくさんの人が並んでいた。
「すごい人の多さですね」
「そうだね。最初に目指す街は交通の中心となっているところで、そこからいろんな方面への馬車が出ているんだよ」
そういえばここは世界有数の大国なんだっけ。
しばらく待つと一台の馬車がやって来た。が、すぐに定員に達してしまい、俺達は乗ることができなかった。
「こんなことがあるんですね」
「リクトはあまり馬車に乗ったことがないのかな? 大都市に行く便ほど利用する人が多くなるから、よくあることだよ」
そうか、つい電車みたいに考えていた。住んでたところが大都市じゃなかったので、電車が満員で乗れなかったことなんて一度もなかったから。馬車は電車ほど広くないんだった。
それでもその後はあまり待つことなく乗ることができた。
そして内装を見た俺は驚いた。思ってたよりも豪華だったからだ。それこそ電車にあるようなフカフカの座席が用意されていて、床にはカーペットが敷かれている。商業なんだから普通のことか。
俺達の他に乗っているのは十数人といったところ。従業員と思われる人も乗っていて制限をしているようだ。
なので満員でギチギチになるという心配はなく、乗っている全員が余裕をもって座ることができる。……はずだった。
俺はリュックサックとカバンを自分の両側に置いた。電車だとマナー違反となり得る行為だけど、すでに他の人は座っているしこれ以上は乗って来ないし大丈夫だろう。
ところが右側に置いたリュックサックが、俺のほうにギュッとくっついて来ている感覚があった。まるで押し付けられているかのようで、なかなかの力で迫り来る。
俺の知識によるとリュックサックは勝手に動かない。怪奇現象かと思い右を向くと、そこにはエミルが座っていた。
「あの、エミル? そっち側けっこう空いてない?」
「そうですか?」
ますます迫り来るリュックサック。
「潰れる! 食べ物が潰れるから!」
「旅ってワクワクしますー!」
もはや俺の言葉はエミルには届かないのか。俺は仕方なくリュックサックをひざの上に置こうとしたが、そこにはいつの間にか左側に置いたはずのカバンが乗っていた。
俺の知識によるとカバンは勝手にひざの上に乗らない。今度こそ怪奇現象かと思い左を向くと、カバンを置いたはずのところにミヤが座っていた。
「何してる?」
「同じパーティーなんだから近くに座るのは自然なことじゃない?」
「そこにはカバンを置いてたんだけど」
「それならひざの上に乗せておいてあげたわよ」
「頼んでないけどな」
もはや会話が成立するだけマシなのか。結局はひざの上にリュックサックとカバンを乗せ、両側にはエミルとミヤがぴったりくっつき、広い座席で窮屈な思いをする羽目になった。
(嫌じゃないけど嫌だ。カリンカさん、どうにかしてください)
カリンカさんは優しく見守ってくれていました。
そのままの状態で二時間ほど馬車に揺られ、最初の街へ到着。そこからさらに二つの街を経由して、最初の目的地に着いたところで早めに宿に行って一泊。
その翌日も馬車に揺られ、ようやく王都に着いた頃にはすでに夕方だった。
さすが王都なだけあって、建物や人の数はどこよりも段違い。これは迷子になる可能性が本当にあると思う。
「今日はもう遅いから宿に行こうか」
カリンカさんの言葉にみんな素直に従う。この世界でも宿の予約というものができるそうで、今回みたいに目的がハッキリしてる場合などは当然予約をする。
だけど冒険者だとそうはいかない時もあるので、寝袋が必需品になるそうだ。
宿も王都らしく豪華で、風呂も広い。食事も美味い。
(旅行って楽しいんだな!)
旅行が趣味の人もいる理由が分かったような気がした。
部屋はそれぞれ別で、鍵を二つかけられる。防犯のために施錠はしっかりしなくては!
翌日になり、全員が宿の食堂でテーブルを囲み朝食をとる。
「今日はどうするんですか?」
「今日は聖女様に謁見するため城に行こうと思っているんだ」
「私、聖女様とお話しできるでしょうか?」
「そうだね、許可されればね」
「エミルは絶対にそうよ! 私はそう思ってたからね!」
こうして王都での活動が始まったのだった。




