第31話 観念する美女と美少女
俺は他の冒険者から『軽装タンク』って呼ばれてるんだってさ!
「なんですかそれは」
俺は受付のカスミさんにそう言ってはみたが、そんなことを聞かれるカスミさんはいい迷惑だろう。
「あら、リクトさんはイヤなのかしら?」
「嫌ってわけじゃないですけど、特に褒められるようなことはしてないし、それにどう反応していいのか分かりません」
「合同探索に同行したギルド冒険者から聞いたわよ? リクトさんがすすんで前に出たって。そのおかげで他の冒険者がケガをしなくて済んだとも言っていたわね」
「そうですね、それは本当によかったと思ってます」
「そうよ。だからもっと誇っていいことなのよ。それは間違いなくリクトさんの功績なんだから」
「そう……ですね。俺は誰かを守ることができた。それだけで十分ですよね!」
カスミさんに背中を押され、受け入れることにした。別にバカにされてるわけじゃないだろうし。やっぱり年上の優しい美人お姉さんっていい。
俺は「そうさ、別にバカにされてるわけじゃない。むしろ誇るべきことなんだ!」と自分に言い聞かせながら、ギルド印が押された依頼書を持って三人のところへ戻った。
「あ、軽装タンクのリクトが戻って来たー!」
「ミヤはバカにしてるよな!」
どうやらミヤ達はエントランスで俺を待つ間に、たまたまその話を耳にしたらしい。
「冗談だってー! 私はカッコいいと思ってるよ!」
「どうだか」
場所は変わりここは最高難易度のEランクダンジョン。
レンガ調の壁に、歩くと靴音が響く石畳のような床。まるで人工物かとも思えるほどに、なんというか今までで一番迷宮っぽい。今までは洞窟って感じだったから。
「あの、エミル。すごく歩きづらいんだけど」
「そうですか?」
横を歩くエミルが近すぎて、時々右腕がエミルの左腕とぶつかっている。通路はこんなに広いのに。どうしよう、距離感バグが直ってません!
「エミルとミヤは私とリクトの後ろに隠れるようにするといいよ」
「はいっ、わかりましたぁー!」
元気よく返事をして従う素直なエミル。そして心なしかカリンカさんもいつもより近いような気がするんだよなぁ。
「カリンカさん、ここの最深部にある薬草をとって帰ればいいんですよね?」
「そうだよ。そしてこの依頼を達成できればDランクになれる可能性が高い。合同探索に参加したということも考慮されるはずだよ」
なんでもここでしか手に入らない薬草があるらしく、それでしか作れない薬があったりするので、ここもけっこうな需要があるダンジョンだそうだ。
ダンジョンに需要ってのも変な話だけど、日本にだって使い方次第で毒にも薬にもなるものがあるので、要はいかにして上手く付き合っていくかという話なのだろう。
途中で多くのモンスターを倒しながら進むと、広い部屋に行き着いた。どうやらここで終わりらしい。そしてその奥、本当の意味で最深部にあたる場所にそれはあった。
石造りの部屋なのに生えている草。それはさながら道端になぜか生えている雑草のよう。
我ながら酷い例えだが、とにかくそんな感じで不思議な光景に見えた。
「みんな気をつけて。その薬草を抜いた瞬間モンスターがやってくるから」
「マジですか。どう対処すれば?」
「一体ごとは強くないんだけど、数の多さが厄介なんだ。だから地道に数を減らしていくしかない。とりあえず有効なアイテムを持って来てるから、まずはそれを使うよ。私が合図したら、みんな目を閉じて」
そして俺が薬草を抜くと、コウモリのようなモンスターが一斉に襲いかかってきた! その数は数十匹にものぼる。
「みんな目を閉じて!」
カリンカさんの合図。そして目を閉じる。
「よしっ、もういいよ。今のうちに数を減らそう」
再びカリンカさんの合図により目を開けると、モンスターの動きがおかしくなっていた。同じところをぐるぐる回っていたり、もがいてるように見えたり。
さっきカリンカさんが使ったのは閃光弾のようなもので、大量にいるモンスターの目を一瞬にしてくらませたようだ。
そしてエミル以外の三人でとにかくモンスターを攻撃していく。
真正面から全部を相手するよりも遥かに安全とはいえ、闇雲に動き回るモンスターもいるため、偶然ツメが当たったりしてしまうこともあった。
それでもモンスターが混乱しているうちに、全部倒すことができた。
「ふぅ、やっと終わったか」
周りには大量の魔石が落ちている。それを拾おうとすると、なんだか顔にヒリヒリした感覚がある。
右手で頬をなでると、チクッとした痛みに加えて少しの血がついていた。もちろん【ダメージ調整】は『軽傷』に設定してある。
「エミル、悪いけどヒールをお願いできない?」
「はいっ、喜んで!」
傷付いたのに「喜んで」ってことは聞かなかったことにして、やっと会話が成立したぞ。
そしてエミルが「前に来てください」と言うので俺はその通りにしてから、エミルに合わせて少し腰を落とした。
エミルの可愛い顔が至近距離に。パッチリした二重まぶたに大きな目。長いまつ毛に柔らかそうな唇。そこから漏れる息づかい。その全てが俺の鼓動を早くさせる。
それからエミルが両手を軽く伸ばして、俺の両頬にそっと触れた。
「ヒール……」
エミルの柔らかな両手から伝わる温もり、少し手を伸ばせば触れられそうな唇、全身から抜けていく力、消える痛み。それはこれ以外では得られないであろう感覚。つまり至福。
「はいっ、終わりましたぁー!」
「エミル、ありがとう」
これは決して遊びではない。エミルのレベルアップのためだ。
「お二人はケガしていませんか?」
エミルが他の二人に聞くと、カリンカさんがエミルから顔を背けた。
「カリンカさん、顔を見せてください」
「えっ!? いや、私は大丈夫だよ」
「ダメですよっ、カリンカさんの綺麗な顔に傷が付くなんて!」
「私はポーションで治すからっ!」
「ダメですっ、ポーションは使うと無くなっちゃいますから」
「うぅ……」
するとカリンカさんは俺とミヤを見て、何かを考えているようだった。
「エミル、あの柱のところまで一緒に来てもらえるかな? 悪いけどリクトとミヤはここで待っててね」
カリンカさんはそう言うなり、エミルの手を引いて柱の後ろへ行ってしまい、姿が見えなくなった。
「ねえリクト、カリンカさん、どうしたんだろうね?」
「さあ?」
そして待つこと数分。ようやく二人が戻って来た。
「ふぅー、待たせてすまないね!」
そう言ったカリンカさんはとてもスッキリした表情をしており、傷ひとつ無かった。
「さあ治療も終わったことだし、早く帰って夕食を作るわよ!」
「あの、ミヤさん? ミヤさんの顔にも血が固まった跡がありますよ?」
「えっ!? こんなの平気へいき! 私なんか低級ポーションで十分なんだから。誰かちょうだい!」
「ダメですっ! せっかく可愛いのにいけません!」
「ホントにこの子は聖女なんじゃないの!?」
どうやらミヤはエミルヒールをかけてもらうことにしたようだ。そしてエミルは俺の時と同じように、至近距離でミヤの顔にそっと触れた。俺の時よりいい雰囲気だ。
「ちょっ、待って! 私やっぱり女の子同士って困るというか、確かにエミルは可愛いけど、だからって触れ合いたいとは……」
「ヒール……」
「あっひゃ……」
俺は昇天したミヤをただ静かに見守るのみ。
「ミヤさんの傷、治りましたぁー!」
嬉しそうなエミル、締まりのない顔で立ち尽くすミヤ。
「あっ……! 何かがつかめそうです」
「レベルアップなのか!?」
「多分、そうだと思います……!」
しばらくの静寂の後、エミルが両手を組んで祈りのポーズをとった。
「いきなりどうした?」
「いえ、なんというか、こうすると何かが変わるような気がするんです」
エミルは一分ほどそのままの体勢だった。それが終わる頃にはミヤがヒールから回復(?)したので、全員で来た道を通って帰ることに。
半分ほど通過したところで俺は違和感を覚えた。来る時はあんなにいたモンスターに一度も遭遇していないのだ。
「カリンカさん、薬草をとってる間にモンスターが絶滅したんでしょうか?」
「いや、そんなわけが……。でも確かにこれは異常ともいえるかもしれないね」
俺はこの状況をどこかで見たことがあるような気がした。
「まさか結界魔法……とか?」




