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第3話 そしてやって来る金髪美女

 俺はついに美少女から回復魔法をかけてもらうことができた。控えめに言って最高でした。

【俺の不純な異世界冒険譚(ぼうけんたん)・完】

 

 いやいや、さすがにこれで終わりにするには早すぎる。気になることがあるからだ。


「回復ありがとうございました。俺はリクトっていいます」


「どういたしまして。私はエミルっていいます」


 改めて顔を間近で見ると、腰あたりまである銀髪に碧眼の整った顔立ち。透き通るように白い肌。日本人離れした美少女で、俺より一つ下の16歳とのこと。背は俺より15センチくらい低い。異世界アニメの主人公たちはこんな感じの美少女と一緒に旅をしているんだな。


「もしよかったら、いったい何があったのか聞かせてもらえませんか?」


「長くなりますけど、よろしいですか?」


 そして美少女はいきさつを話してくれた。


 どうやらこの子の妹が病におかされているらしく、完治させるにはエリクサーという貴重な薬が必須なんだとか。ゲームとかでお馴染みのアレだ。


 でもそれは材料ですら貴重品らしく、【龍の巣】と呼ばれる高難易度ダンジョンでしか手に入らないものらしい。


 なので高ランク冒険者に護衛を頼んだら、さっきみたいなことになってしまったということだ。


(詐欺に遭ってしまったようなものか……)


 俺はガラにもなく怒りで拳を握った。すると手の中に硬い感触があるのを思い出した。

 そうだった、俺が口から流血させてる様子にビビって、あの金髪青鎧が俺に放り投げてきた銅貨が一枚だけあるんだ。


「ごめん、これしか取り返せなかった」


「そんなっ、十分に嬉しいですっ! 大切にしますね!」


 心底嬉しそうに銅貨を受け取った彼女。銅貨は100円くらいの価値で、異世界でも大した物は買えないそうだ。

 それなのにこんなにも嬉しそうにしてくれるなんて、心まで癒してくれるのかこの子は。


「これからどうするつもり?」


「冒険者ギルドに行って、護衛してくれる方を探してみようと思います」


 どうやらこの子は冒険者ではないらしい。ヒーラーだからって、冒険者になる義務なんて無いということなんだろう。


「俺は冒険者になろうと思ってるんだけど、もしよかったらギルドまで一緒に行く?」


「お邪魔じゃなければ、ぜひ」



 俺にとっての最初の街はもう見えている。遠目から見ても防壁で囲まれているのが分かるため、大きな街であろうことは想像できた。

 

 街までたどりつくと、思ってた以上に防壁が大きいことに驚く。俺の背丈の何倍もある。

 そして入り口には重そうな鎧を身につけ、剣を持った人物が二人ほどいる。門番だろう。


 呼び止められやしないかと内心ビクビクしていたけど、難なく街に入ることができた。


 街並みが本当に中世ヨーロッパみたいな感じなので、俺は思わず吹き出してしまった。少しだけ海外旅行のような気分になる。


 どうやらここはガリアーノという大都市だそうで、俺はもちろんのこと、エミルもここに来るのは初めてだという。


 土地勘などあるわけないので、とりあえず一番大きくて目立つ建物を目指すことにする。


 そして赤い屋根が特徴的な、いかにも大豪邸ですといった建物の前にたどり着いた。看板を見てみると【冒険者ギルド・ガリアーノ支部】と書かれている。


 中に入ると結構な人で賑わっている。街の大きさから考えると、まあそうだよなといった感じだ。

 それからエントランスには木製のテーブルとイスがいくつかあり、フリースペースになっているようだ。


 その近くにはでかい掲示板があり、いくつもの紙が貼られている。近づいてみると依頼書のようだ。ここで受ける依頼を探すのだろう。


 そして入り口から真っ直ぐ進んだ所にいくつか受付があり、カウンターの向こう側では綺麗なお姉さん達が対応している。


 まずはエミルの護衛を依頼するため、俺達は受付のお姉さんの一人に聞いてみた。

 するとまあ当然というか、お金がものすごくかかることが判明する。


「護衛依頼料ってそんなに高いんですか!?」


 俺は受付のお姉さんに対して、思わず大きな声を出してしまった。


「え、ええ……。基本としてはギルドへの仲介料と冒険者さんへの報酬で構成されます。そのうち報酬は依頼主が自由に決められますけど、危険な場所になるほど、どうしても高額になってきますから。ましてや【龍の巣】となると、SランクかAランクの冒険者じゃないと、ギルドとしても認められません」


 エミルが行こうとしているのは、【龍の巣】と呼ばれる高難易度ダンジョンだ。いわばお金で命を貸してくださいと言っているようなもの。十分な報酬が出るとしても受けてくれる人がいるかどうか。


「この場合の相場はどれくらいなんでしょうか?」


 俺がお姉さんに質問すると、お姉さんは電卓のようなものを操作し始め、その結果を俺とエミルに教えてくれた。理不尽にお金を失ったエミルには、到底払える額ではなかった。


 この世界の物価に詳しくない俺でさえ分かる、超高額。一応エミルに聞いてみると、「お金、もう残ってません……」との答えが返ってきた。当然だ、さっき詐欺に遭ったようなものなんだから。


 通常ならばここで詰みだ。お金を貯めて出直すことになるだろう。でも今すぐにこの問題を解決できる方法が一つだけある。


 それは俺の持ち金を使うこと。これは俺も驚いたことなんだけど、転生する時に女神様から生活資金をもらった。

 作品によってはクソ女神だったりするのに、俺はかなり運がよかったらしい。


「贅沢しなければ当面の間は収入が無くても大丈夫ですよ!」って言って、金貨が入った袋をくれたんだ。


 それを使えば護衛を依頼することができる。俺は即決した。このお金を使おうと。俺はお姉さんが教えてくれた相場の額をカウンターに置いた。


「分かりました。これで護衛依頼を出してください」


「えっ……!? リクトさん!?」


 今度はエミルが大きな声を出した。そりゃそうだ、さっき会ったばかりの見ず知らずの人から、自分のためにこんな大金を使われたら怖いとすら思うだろう。


「あー、実は俺も龍の巣に行く必要があって、ちょうど護衛を依頼しようと思ってたんだよ」


 取ってつけたような嘘。それでも言わないよりはマシだ。


「でも……」


「気にしないで。さっき回復魔法をかけてくれたお礼でもあるんだから」


 なんとかエミルに納得してもらえた俺は、正式に護衛依頼を出した。


「受理いたしました。近頃はですね、護衛依頼を受けたにも関わらず、なにかと理由をつけて途中放棄して報酬は返さないという、悪質なパーティーの存在が確認されていますから、依頼は必ずギルドを通すようにしてくださいね」


 その言葉を聞いた俺とエミルはお互い顔を見合わせた。エミルはここからはるか遠く離れたギルドが無い小さな村から来たらしく、俺にいたっては転生している。

 

 あの金髪青鎧のパーティーは、たまたまエミルの住む村に立ち寄っていたらしい。

 そしてそのまま護衛を依頼するように言われ、素直そうなエミルはそれに従ってしまった。


 正式な依頼の流れや、そんなことが起きているなんて知らなかった。騙されるほうが悪いだなんて、そんなわけないだろ!


 俺は被害に遭ったことと、あの金髪青鎧パーティーの特徴をお姉さんに伝えた。捕まることを祈ろう。


 依頼を出せばあとは待つのみとなる。まだ昼なので、俺とエミルはエントランスのフリースペースで待つことにした。


 ところが夜まで待っても俺達の依頼書を手に取る人は現れない。受付のお姉さんもAランク以上となるとなかなか見つからないと言っていた。


 今日は帰るかと思ったところで、重そうな白銀の鎧を身につけた金髪ポニーテールの若い女性が、俺達の依頼書を掲示板から剥がして受付に持って行った。こうして目の当たりにすると、想像以上に嬉しい。


 受付のお姉さんが俺達を紹介しているような仕草をすると、金髪女性がこちらへ近づいて来た。


「この護衛、私達に任せてもらえないだろうか?」

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