第26話 不思議な悩み
ギルド所属の30代半ばくらいの男性冒険者からの一声によって、防御に自信がある冒険者達が先頭を買って出た。
ここでいう『ギルド所属』ってのは、ギルドが選んだメンバーのことで、今回みたいな合同探索や国から依頼される案件の時に出動する冒険者の事を指す。
俺達のような一般冒険者は『ギルドに登録している』メンバーということだ。
前に出た人数は俺を入れて五人。みんなそれぞれが重そうな鎧を身に付け、ある者は大盾を持ち、ある者は顔がすっぽりと隠れるような兜をかぶっている。
そこに混ざってライトアーマーという、タンクにしては軽装な装備の者もいる。俺だ。
「君、少しいいだろうか?」
そう言って俺に声をかけたのはギルド冒険者。
「はい、なんでしょう?」
「失礼だけど君は本当にタンクなんだろうか? 装備だけで判断するわけじゃないんだが……。そうか、回避を得意としているんだね?」
「俺にとってはこの装備が一番動きやすいんです」
「まあ確かに回避するとなると重い鎧は着ていられないからな。だけどその分、攻撃を食らってしまった時は防御無しの直撃になりやすい。それは分かっているね?」
「はい、分かっているつもりです」
俺がそう言うとギルド冒険者は何かの紙を取り出してそれを見始めた。どうやらそれは今回の参加者が記されたリストのようだ。
「君はEランクなのか。確かに地下二階までに目撃例があるモンスターは低ランクばかりだ。だから今回はEランクから参加可能になっている。だけどここから先もそうだとは限らない。僕もサポートするから決して無茶はしないように」
「分かりました」
合同探索についてはなるべく高ランク冒険者が多いほうがいい。だけど高ランク冒険者はそもそも数が少なく、その人達は難易度が高い依頼を受けることが多い。
だって難易度が高い依頼は高ランク冒険者にしか達成できないのだから。多分だけどギルドとしてもそのほうがいいと考えているのだろう。だからそれゆえに、高難易度ダンジョンが近くにある街付近にいることが多い。
ギルドは合同探索を冒険者としての経験を積む場や、レベルアップの機会としても考えているようだ。だから事前に十分に検証したうえで、参加できるランクを設定している。
それにこうしてギルドからも人を派遣しているし、無謀であるようなら、そもそも依頼の受理や合同探索への参加を認めないそうだ。
地下三階。ここは地下二階までとは違い、道幅が狭くなっている。今まではある程度横に広がって進むことができたけど、そうはいかないみたいだ。
足場も悪く、エミルとカリンカさんパーティーと一緒に行った【龍の巣】と同じくらい。
ゴツゴツとした岩場で、前方だけじゃなく足元にも気を配らないといけない。
ギルド冒険者からの指示で、ここにいる50人ほどのうち、数えるほどしかいないCランク以上の冒険者は後ろの方に回って、前方にいるよりも難しい後方からの奇襲を警戒することになった。カリンカさんもそこに位置することに。
参加者のほとんどを占めるDランクとEランク冒険者は、少し離れて隊列の真ん中あたりで警戒を続ける。エミルとミヤはその中。
俺とタンクのみんなは横一列になり、後ろの人達を守るようにして進む。
もし仮にゲームみたいに50人全員が縦一列になったとしたら、まるで人気ラーメン店のような行列になってしまうことだろう。さすがにそれは無理がある。
ギルド冒険者は俺やタンクの人達よりも一歩分ほどさらに前に出て、自分だけが攻撃のターゲットになりやすいようにしてくれている。
ギルド冒険者が魔法で作り出した明かりを頼りに進むと、前方がわずかに光ったのが見えた。「モンスターか!?」と思ったのも束の間、まるで腹の辺りを思いっきり殴られたかのような衝撃が走った。いや違う、腹に丸太が勢いよく当たったとでもいうか。当たったことないけど。
そして気がつけば俺の視界にはまるで鍾乳洞のような岩の数々が映っていた。
モンスターだと思った光は、ある意味では当たっていた。でも正確には違う。それは魔術師のようなモンスターが放った衝撃魔法だった。
それをまともに食らってしまった俺は仰向けに倒れていたのだ。
俺の吹き飛びを皮切りに、ギルド冒険者が「誰か彼に回復を!」と言い残し、誰かが走る足音が聞こえた。
俺は倒れたままで見ることはできないが、きっとギルド冒険者がモンスターのところまで駆けつけて行ったのだろう。
しばらくすると遠くの方からなんとも不気味な声が聞こえ、その後静かになった。きっとモンスターを倒してくれたに違いない。
「リクトさんっ!」
「リクト!」
「また無茶するんだから!」
たくさんの人をかきわけているであろう仲間達の声が聞こえる。そうか、ヒールをかけようとしてくれてるんだな。
だが俺はハッとした。こんな大衆の前でエミルヒールをかけてもらうとどうなるか。それはもう空気を読まずイチャついてるようにしか見えない。この体勢だとエミル自身が俺に覆い被さってくる気すらしてきた。
そう考えた俺は反射的にガバッと上半身を起こした。そこへギルド冒険者が駆けつけて来る。
「大丈夫か!? 本当にすまない、僕のミスだ。まさかダークウィザードがいるだなんて」
ダークウィザードというのはフード付き漆黒のローブをまとったCランクモンスターで、その実体は無い。いわばゴーストでアンデッドに含まれる。さっきみたいに暗闇に紛れて、奇襲のように魔法を放ってくる。
「それよりも、魔法が当たった箇所を見せてくれないか! いや、まずはこの上級ポーションを飲んでくれ!」
本気で申し訳なさそうに心配してくれるギルド冒険者の申し出を、俺は「心配ありがとうございます。でも大丈夫です」と言って、気持ちだけ受け取った。
俺は【ダメージ調整】を『無傷』に設定してあるので、ノーダメージだ。ただ衝撃までは無効化できないっぽいので、改良の余地ありかも。
それから俺が二本の足で立ち上がったことに驚く人達。だけど俺は確かに誰かを守ることができたといえるだろう。
もし俺に攻撃が当たっていなければ、後ろにいた人が代わりにCランクモンスターの攻撃を食らっていただろうから。
出現モンスターが分かれば探索のしやすさがグッと上がる。その後は全員で少しずつ探索を進め、今日中には大部分の探索が終わりギルドに報告をして合同探索が終了。
夜7時にはパーティー拠点に帰ることができた。それからいつものように広い風呂を一人で使い、ミヤが作った美味い料理を食べ、みんなで談笑してから豪華な個室で寝る。……はずだった。
「ちょっとリクト! また無茶したわね!」
顔を赤くしたミヤに俺は怒られている。食事後の談笑は俺への説教タイムに変わった。
「いや、前にも言ったじゃないか。俺は防御に自信あるんだって」
「だからってあの場面でホイホイ出て行くんだから私ビックリしたじゃない!」
「ま、まあまあ……。ミヤ、リクトだってよかれと思ってしたことだろうから、そんなに怒らなくても」
(さすがカリンカさん、冷静で優しい……!)
「カリンカさんはそうは思わないんですか!?」
「思うよ。リクト、気持ちは分かるけどね。でも今回はリクトがいたおかげでケガしなかった人もいるわけだし、厳重注意ってことにしておこう」
「リクトさん、私、リクトさんは立派だと思いますっ!」
まさに三者三様。みんなが言いたいことも分かるし、でもそれをやめればエミルのレベルが……! なんとも不思議な悩みだった。
【その日の夜、それぞれの個室にて】
SIDE カリンカ
うーん、やっぱり私がいつも隣にいないとダメなんだろうか……?
でもリクトだって悪いことはしていないし、あまり叱るのもね。どうしたものかな?
SIDE エミル
リクトさんがケガしちゃったら、すぐにヒールを使えるようにしておかないと! だからいつもリクトさんを見ていようかな?
SIDE ミヤ
もう! なんなのなんなの!? リクトってばまたあんなカッコいい……危ないことして!
やっぱり私が止めなきゃ……! そうするとどんな方法がいいのかなぁ? 要は大人しくさせればいいわけだから……。あの方法かな? それともあっちにしようかな?
もう、仕方ないなぁ……。私がついてなきゃダメなんだから……。ね?




